編集長コラム

細川 忠宏

食事パターン研究が私たちに教えてくれること

2015年09月10日

最近、食事パターンが女性や男性の生殖機能に関係していることを確かめ研究結果が続けて報告されています。

1つは、妊娠前の女性の食事パターンが出生児の先天性心疾患の発症リスクに関連するというアメリカの研究で、妊娠前にアメリカの食事ガイドラインに近い食事パターンで食べていた女性ほど、生まれたお子さんのいくつかの先天性心疾患の発症リスクが低かったというものです。

もう1つは、男性の食事パターンは精液検査の結果と関連するという台湾の研究で、高脂肪食の欧米型食事パターンに近い男性ほど精子濃度や正常精子形態率が低く、スイーツやスナック菓子、砂糖入り清涼飲料水をよく摂る男性ほど乏精子症のリスクが、また、高糖質食の男性ほど精子無力症のリスクが、それぞれ、高くなるというものです。

欧米でも、日本でも、「食事パターン」、すなわち、どんな食べ物を、どれくらい食べているのかを調べ、いくつかの食事パターンに分け、それぞれのパターンの度合いといろいろな疾患へのかかりやすさとの関係を調べる研究が盛んに行われるようになりました。

栄養疫学研究では、従来、特定の栄養素や食品といろいろな疾患のリスクとの関係を調べてきたのですが、明確な関連がみつかることがそう多くはないことがわかってきたという背景があります。

そもそも、私たちは、普段、たくさんの栄養素が含まれている複数の食品を組み合わせて食べています。そして、それらの食品たちが消化され、必要な栄養素が体内に取り込まれるわけです。さらに、体内では栄養素の相互作用が働き、それぞれの栄養素の働きが強まったり、弱まったりするという、複雑ですが、精巧な作用が起こっているはずです。

つまり、私たちは「栄養素」ではなく、「食品」を食べていますが、私たちのカラダは「食品」ではなく、「栄養素」を吸収し、利用しているわけです。

であれば、「栄養素」よりも、「食品」、「食品」よりも「食事パターン」にこそ、注目し、こだわるべきです。

そして、単独の栄養素や食品ではなく、「食事パターン」、すなわち、さまざまな栄養素の組み合わせが、私たちのカラダのさまざまな働きを縁の下の力持ち的の支えてくれているわけです。

妊活食とか、妊娠にいい食品、悪い食品、精子によい食品、悪い食品と称して、妊娠を望むカップルに、「なにを」食べ、「なにを」避けるべきかということが、まことしやかに言われたりしますが、大切なことは特定の栄養素や食品ではなく、「食事パターン」です。

もちろん、あるべき「食事パターン」とは、たんぱく質や脂質、糖質、ビタミン、ミネラルという5大栄養素を過不足なく、カラダが吸収し、利用できるような「食べ方」ということになります。

要するに、「バランスよく食べる」ということなのですが、これも言うは易し行うは難しで、現代では、カラダが必要な栄養素を過不足なく吸収し、利用するように「食べる」ことは、これはこれで、いろいろな工夫や取り組みが必要です。

ただし、これが最も効果的な「妊娠しやすいカラダづくり」であり、健全な妊娠、出産にとどまらず、長期に渡って、家族全員のカラダやココロのパフォーマンス、そして、「生活の質」に関わってくることです。

私たちは、今後もそんな工夫や取り組みをサポートできればと考えています。