編集長コラム

細川 忠宏

大切な栄養素の不足は「自己防衛」しなければいけない国

2016年12月13日

厚生労働省は、先月、「平成27年国民健康・栄養調査」の概要を発表しました。

その中で栄養素の摂取状況が、7,456人(男性3,502人、女性3,954人)の解析データで公開されており、現在の日本人の平均的な栄養素の摂取状況を知る目安になります。

一方、厚労省は「日本人の食事摂取基準」で栄養素の必要量や推奨量を設定していますので、各栄養素ごとの「摂取状況/必要量・推奨量」で、充足度を知ることができます。

例えば、妊娠、出産に重要とされるビタミンやミネラルの30代40代の女性の充足度を算出してみると、葉酸が103%、鉄が63%、カルシウムが68%、亜鉛が90%と、決して、安心できるような状況ではないことがわかります。

因みに葉酸は103%になっていますが、これは推奨量の240μgに対しての充足率であって、厚労省は妊娠を予定している女性はこのままでよしとしているわけではなく、サプリメントで400μgを上乗せすることを推奨しています。

つまり、30代、40代の日本人女性は、妊娠、出産に臨むにあたって、改めて、食生活を見直し、サプリメントの活用も考える必要があるという状況なわけです。

このことは、現代は、普通に生活していれば、必須栄養素が不足してしまう社会になってしまったということを物語っています。

ただし、決して、単純な問題ではありません。

厚労省は、必須栄養素の必要量や推奨量を設定し、その一方で、到底、そのレベルに到達していない調査結果を発表しているわけです。

唯一、妊娠を予定している女性には葉酸は大切な栄養素なので、サプリメントで上乗せすることを推奨してはいますが、妊娠前の葉酸サプリメント利用率は30%にも達していません。

あとは、各人にまかせている状態です。

ところが、海外に目を向けてみると、妊娠前の女性の栄養素の欠乏状態を「国家課題」としてとらえていることがよくわかります。

たとえば、アメリカやイギリス、スウェーデンでは主食の小麦粉に鉄の添加を義務づけています。具体的には、小麦粉100g当たりの鉄の添加量は、アメリカで2.64mg、イギリスでは1・65mg、そして、スウェーデンでは、3mgから、5mg、そして、6.5mgと増量されています。

その結果、貧血の女性は、どんどん、減少し、貧血女性の割合は日本の半分以下のレベルです。

また、葉酸も多くの国が主食に添加しています。たとえば、アメリカは小麦粉100gに葉酸を140μg添加することを法律で義務づけています。2016年時点で、葉酸添加を義務づけているのは85ヵ国になっています。

その結果、二分脊椎症の発症率は、どんどん、低下していますが、日本では反対に増加傾向にあります。

いかがでしょうか?

不足することで、生まれくる子どもの健康にマイナスの影響を及ぼすことがわかっている栄養素については、国が強制的に補充させようというわけです。

生まれくる子どもの健康を親まかせにせず、国の責任で守らなければならないという決意が感じられます。

もちろん、主食に添加することは、妊娠を予定している女性だけでなく、全国民にも強制的に摂らせるわけですから、メリットだけでなく、デメリットもあり、議論があるところではあります。

ですから、この政策の是非はおいておくとして、言えることは、日本で住んでいる限りは、妊娠、出産にあたって必須の栄養素を不足しないように、「自分」で気をつけて、「自分で」対策を講じるしかないということでしょう。

大切なことは、そういう社会で私たちは生活しているということを自覚し、正しい情報に接し、自分たちにふさわしい方法で実行する必要があるということだと思います。