編集長コラム

細川 忠宏

新しい命のための環境づくり

2012年08月13日

なかなか思うように授からないとなると、妊娠するためにどうしたらいいのか、過剰な心配にさいなまれてしまうことがあると思います。

当たり前な人情だと思いますし、心配性の人だったら尚更のことでしょう。

何かやっておくべきことはありますか?、そんなメールをいただくこともあります。

よくわからない"妊娠法"を購入すべきかどうか相談を受けたり、実際によくわからないままに、いろいろな商品にお金を使っているという人もいたりします。

それぞれ、考えがあってのことなんでしょうが、ただ、私の経験から言わせてもらえば、心配は、別の、もっと大きな心配を呼ぶ性質があります。

ですから、どうしたら妊娠できるのか、そのことが気になって、心配で、冷静な判断ができない、何も手につかないという、心配のピークの時には、少し、この問題から逃げるというか、スルーして、誰かに助けてもらうなどして、気分転換したほうがいいように思います。

そして、冷静に考えられるようになれば、「いったい自分は何をそれだけ心配しているのか」という視点で、心配を心配のタネにまで分解してみてはいかがでしょうか。

その時には、あれこれ考えるだけでなく、書いたり、図にしたりすると、うまく、考えが整理できるかもしれません。

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意外に思われるかもしれませんが、これまで体外受精や顕微授精などの高度生殖医療において、どうすればもっと治療成績がよくなるのかについての研究結果は、相矛盾することだらけと言っても過言ではありません。

また、不妊原因を調べるために、どんな検査を実施すべきかについて、また、検査結果の正常範囲について、世界の生殖医療専門医の間で共通のコンセンサスが形成されているわけでもありません。

そして、最先端の生殖医療を施しても周期あたりの妊娠率は50%を超えることはありません。

つまり、もしも、次の周期で確実に妊娠するためにどうすればいいのかについて心配しているのであれば、また、もしも、これまでなぜ妊娠できなかったのかについて心配しているのでれば、そして、いつになったら妊娠できるのかについて心配しているのであれば、その正しい答えは、全て、「はっきりとしたことはよくわかりません」なのです。

世界中の専門家が、一生をかけて、命をかけて、研究しつくしても、未だに「わからない」問題なのです。

ですから、それらの問題を本当に心配すべきなのは、あなたではなく、プロの専門家しょう。

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生命の誕生という神秘とさえ言われるほどの大きな問題について過剰に心配するよりも、現実の問題として心配すべきことは他にあるのではないでしょうか。

それは、たとえば、もしも、新しい命がやってきたときに、新しい命がすこやかに育まれるような環境ができているかどうかということです。

母親になる女性と父親になる男性の体内環境は、"妊娠する前から"受精卵が、胚が、胎児が、健全に成育するかどうかに深く影響を及ぼすことが明らかになっています。

もしも、ストレスや悪い生活環境、運動不足などで体内環境が悪化していると、新しい命のすこやかな成育が阻まれるばかりか、もしも、順調に成育して、生まれたとしても、太りやすかったり、アレルギーにかかりやすかったり、生活習慣病にかかりやすい体質になるリスクが高くなると言われています。

必要なことは、極めて当たり前なこと、すなわち、規則正しい生活、バランスのとれた食生活、適度な運動習慣、不足しがちな必須栄養素(ビタミンミネラル)の補給、自然な欲求にまかせた性生活です。

未だ見ぬ我が子が、自分の責任で人生を歩めるようになるまでの養育環境は両親の良好な健康状態と良好な夫婦関係がベースに整えられることは間違いのないことです。

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妊娠の成立そのものに、直接、関与したり、妊娠の成立に必要な条件を、私たちの手で、予め、整えることには限界があります。

もしも、それが出来るようになれば、ノーベル賞100個くらいに値する偉業でしょう。

私たちに出来るのは、新しい命がやってくるのを祈りつつ、待つこと、そして、「新しい命のための環境づくり」です。

そして、パートナーが協力的かどうかを心配するよりも、未だ見ぬ我が子がすこやかに育まれる環境を、ふたりで、いかに整えていくか、そして、そのために、お互いが幸福に生きていくためにはどうすればいいのか、そのことを、真剣に心配すべきではないか、そう思えてなりません。