先月、活性酸素には精子を増やすはたらきがある、そんなショッキングな研究結果が、京都大学の研究グループによって発表されました。
そもそも、活性酸素は周囲の細胞を攻撃(酸化)し、傷つけることから、老化やいろいろな病気の原因とされていて、言ってみれば「悪者」で通っているわけです。実際に、活性酸素の濃度の高い環境では、精子細胞の膜やたんぱく質が傷つけられ、精子の動きが悪くなってしまうことも確かめられています。
そんな活性酸素に、精子を増やす働きもあるというのですから、驚きです。
ただし、今回の発表をよくみてみると、活性酸素濃度が低いと精子をつくる働きがにぶく、その濃度を増やしていくとよくなる、そして、さらに増やしていくと、また、悪くなってしまい、しまいには精子をつくる細胞が死滅してしまうとあります。
つまり、活性酸素の濃度は低くても、高くても、精子をつくる働きが低下してしまう、そして、高すぎると精子細胞がダメになってしまうというわけです。
どうも世間では活性酸素は悪者で通っていますが、そんな単純なものではなさそうですね。
調べてみると、活性酸素は私たちが生きていくうえでなくてはならない存在であることがわかります。
例えば、免疫を担っている白血球は、外部から侵入してきた細菌と戦い、殺す際に活性酸素を利用しているそうです。
また、活性酸素が多いと、卵子も精子も傷つけられ、その成育の障害になる一方で、精子が受精能力を獲得したり、卵子の中に進入する際にも、活性酸素はなくてはならない働きをしているのです。
活性酸素は多過ぎても、少な過ぎてもいけない、かと言ってなければもっといけない、大切なのは適切な濃度、すなわち、「バランス」なのですね。
悪玉とか、善玉という形容は、狭いところしか見ていないというか、全くの間違った見方であるわけです。
私たちは、これは体にいいとか、悪いとか、それは妊娠にいいとか、悪いとか、いろいろなモノやコトに善玉、悪玉のレッテルを貼っています。
ところが、活性酸素と同様、おおよそ、私たちが食べたり、飲んだり、はたまた、体内でつくっている、すべてのものには、本来的には、善玉や悪玉などない、体にプラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともあるだけだと。
そして、プラスに働くか、マイナスに働くかに影響を及し、操っているのは「バランス」だと。
善玉悪玉論は、一見、わかりやすく、腹のスワリがいいのですが、大切なことを見誤ってしまう危険性があるということですね。
考えてみれば、妊娠するために必要とされる栄養素は5大栄養素、すなわち、たんぱく質や糖質、脂質、ビタミン、ミネラルといって、50数種類の成分です。
それらが、卵子や精子、受精卵、胚の細胞の材料になり、細胞分裂や増殖をすすめ、そして、それに必要なエネルギー源になっているわけです。
5大栄養素は新しい命がすこやかに成育するための必須の栄養環境を提供しますが、それらのバランスが崩れると、その障害になり、阻害してしまいかねません。
たとえば、糖質はエネルギー源になりますが、だぶつくと糖化ストレスや酸化ストレスを高め、卵子や精子にダメージを与えてしまいます。そして、必須脂肪酸のバランスが悪ければ、炎症体質を招き、卵質を悪くしたり、着床しづらくさせてしまいかねません。また、ビタミンB群の一種である葉酸は不足すれば、細胞の正常な分裂に支障をきたしたり、子の先天異常のリスクを高めたりしますが、過剰に摂取すれば、出生児のアレルギーのリスクを高めてしまいます。
これらは、ほんの一例で、つまりは、新しい生命の誕生に絶対に必要な栄養素も、そのバランスが悪くなると、妊娠しづらくさせてしまうのです。
全く、同じ顔ぶれであるにもかかわらず、です。
妊娠に近づくために大切なこと、私たちに出来ることは、なにか、特別なもの、たとえば、妊娠にいいと噂されているものを、せっせと摂ったりすることでも、妊娠にいいとされている食材や食品をせっせと食べ続けることでもありません。
そんなことに、真面目に取り組めば取り組むほど、偏った栄養環境をつくってしまうことになり、本末転倒です。
取り組むべきは5大栄養素が本来の働きや役割を発揮できるように、バランスを整えること、それに尽きます。
高齢になれば、なるほど、バランスが崩れやすくなったり、バランスの崩れの影響が大きくなったりしますので、30代後半以降の方にとっては、なおのこと大切だと思います。
ポイントは、良質な「たんぱく質」をしっかり摂ること、血「糖」値の急激な上昇を招くような食べ方をしないこと、「脂肪」の摂取バランス、そして、不足しがちな「ビタミンやミネラル」を補うことです。
まずは、善玉悪玉論、すなわち、妊娠にいいもの悪いもの、不妊に効くもの効かないものという、間違った見方を頭から追い出すことから始めるべきですね。