編集長コラム

細川 忠宏

トランス脂肪酸から自分たちを守るために

2013年11月21日

アメリカのFDA(食品医薬品局)は11月7日の木曜日に、トランス脂肪酸は最新の研究報告による科学的な根拠に基づけば「安全とは言えない」との見解を示し、今後、食品への使用を禁止する方針を明らかにしました。

この報道に接した時、アメリカはそこまで大変なことになっているのか、と思うと同時に、何の規制もない日本では個人が気をつけないといけないな、との思いを強くしました。
そもそも、このトランス脂肪酸、身体に悪いことはわかっていたのですが、日本の農水省の見解は、アメリカやヨーロッパに比べて日本人のトランス脂肪酸の摂取量はかなり少ない傾向にあるので、規制等は不要との見解を示してきました。

実際のところ、1日あたりの推定の平均摂取量は約1グラム前後とされていて、国際機関の平均摂取量の目安、一日当りの総エネルギー摂取量の1%未満を大きく下回っていたわけです。

ところが、アメリカのトランス脂肪酸の1日あたりの摂取量は2003年には4.6グラムだったのが、食品業界や外食産業の自主規制もあって、昨年の2012年には約1グラムまで減っていたのですね。

それにもかかわらず、アメリカFDAはこの脂肪酸を全面禁止にする腹を固めたわけです。私たちにとっても他人ごと、ならぬ、外国ごとではないわけです。トランス脂肪酸は女性の妊娠する力や男性の妊娠させる力を低下させるとされていますので、尚更のことです。

大切なのは、行政の規制をあてにせずに、自己防衛することです。

自分たちで適切な対策を講じるためにも、まずは、このトランス脂肪酸とはどんなものなのかを知っておきましょう。

植物性の油は、普通、常温では液体で、空気に触れると酸化されやすく、加熱すると劣化しやすくなりますが、工業的に水素を添加し、一部の化学構造を変化させると、液体から半固形になり、酸化や加熱にも強く、さらには、風味もよくなり、食品産業にとっては格段に扱いやすくなります。このような加工を施し、マーガリンやショートニングをつくっているわけです。

そして、そのような化学的な操作を加える際に出来てしまう副産物がトランス脂肪酸です。

食品産業にとってはとても都合のよい油なのですが、食べる側にとっては、よいことは何もなく、これまでの研究では摂り過ぎるといろいろな病気や障害のリスクを高めることがわかっているというやっかいなものです。

どんな食品に含まれているかというと、マーガリンや菓子パン、ドーナツ、クッキー、フライドポテト、冷凍食品などで、加工食品やファストフード、あらゆるスナック菓子などです。

それでは、トランス脂肪酸は生殖機能にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

現在、翻訳を進めている「Fertility Diet(日本版タイトルは「妊娠しやすい食生活」)ではハーバード大学による約2万人の看護師を対象にした疫学調査でトランス脂肪酸と生殖機能との関連でわかったこととして、トランス脂肪酸の摂取量が多い女性ほど、卵巣の機能が低下し、排卵障害のリスクが高いことがわかったと言います。

今回のアメリカのFDAの意志決定に際して、「妊娠しやすい食生活」の共著者である、ハーバード大学教授で、世界的な栄養学者であるウォルター・ウィレット博士はこれまでの多くの研究から得られた強力な科学的根拠に基づいたFDAの決定を歓迎すると述べています。

その他、トランス脂肪酸と生殖機能との関係を調べた研究は少なくありません。8万5000人を対象にした試験ではトランス脂肪酸を多く摂るほど、インスリン抵抗性が高く、糖尿病を発症しやすいことを確かめています。

インスリンの効き目が悪くなると、高血糖、高インスリンを招き、女性の卵巣や男性の精巣の働きが低下し、卵の成熟や精子の形成の障害になるリスクが高くなり、妊娠する力、妊娠させる力がともに低下してしまいかねません。

さらに、トランス脂肪酸の過剰摂取は炎症体質を招き、女性の子宮内膜症の発症リスクが高くなるとの報告もあります。

ハーバード大学の研究チームは男性への影響も確かめています。トランス脂肪酸の摂取量が多い男性ほど、精子濃度が低いというものです。大学病院に不妊治療で通院するカップルの男性パートナーを対象に、食物摂取頻度調査で、主な脂肪酸の摂取量を調べ、精液検査の結果との関係を分析したところ、トランス脂肪酸の摂取量で4段階にグループ分けしたところ、最も摂取量の多いグループの男性の平均の精子濃度は、最も低いグループの男性に比べて、40%も精子濃度が低かったとのこと。

このようにトランス脂肪酸は妊娠を望むカップルにとっては摂取を避けるべき脂肪酸です。

それでは、日常生活でどのようなことに気をつければいいのでしょうか。

まずは、マーガリンは使わないことです。パンにつけるとすれば、バターのほうが、数段、健康にいいですし、オリーブオイルでもいいでしょうね。

また、加工食品を購入する際には、ショートニングとか、部分水素添加油脂が原材料欄に記載されていないかどうか、必ず、チェックすることです。もしも、記載があれば迷わず、棚に戻しましょう。

そして、間食にはポテトチップスやスナック菓子は出来るだけ食べないで、ナッツ類にしましょう。

加工食品を、極力、減らし、ある特定の加工食品だけに偏った食べ方を避け、出来るだけ加工度の低い食材を選ぶということでしょうか。