ドクターにインタビュー
vol.12
【3】遺伝子の発現にも影響する妊娠前、妊娠中の栄養素
福岡 秀興 先生(早稲田大学総合研究機構研究院教授)
【3】遺伝子の発現にも影響する妊娠前、妊娠中の栄養素
- 細川)
- 妊娠前の食生活が、子どもの一生の体質に影響を及ぼすのは、どのようなメカニズムなのでしょうか?
- 福岡先生)
- 妊婦さんが低栄養であれば、たとえば、赤ちゃんのエネルギー代謝は、「低栄養状態でも生きていける」ようにプログラミングされます。DNAの配列(遺伝情報)はそのままであっても、遺伝子の働きを調節する仕組みの変化が、母体の低栄養によって起こるのです。この遺伝子の働きを調節する仕組みを「エピジェネティックス」といい、現在、大いに注目されています。
- 細川)
- 遺伝子の働きを調節する仕組みの度合いが変わることで、胎児の体質が決定されるのですね。
- 福岡先生)
- このエピジェネティックスは、受精した時点に近く生じた変化であればあるほど、変化しにくくなり、その変化は世代を超えて続き、時には3代続くといわれています。
- 細川)
- 体質がお孫さん、ひ孫さんまで引き継がれるのですか・・・。
- 福岡先生)
- 身体ができあがってからは、低栄養などの環境の変化により生ずるエピジェネティクスの変化は、栄養状態が改善されれば元に戻る、すなわち、環境の変化に応じて変化します。しかし、胎児期の低栄養により生じたエピジェネティックスの変化は、変化しにくいのです。
- 細川)
- このエピジェネティックスの変化に、ビタミンやミネラルがかかわっているそうですが・・・。
- 福岡先生)
- それは、エピジェネティクスの修飾メカニズムのひとつに、葉酸をはじめとするビタミンB群やアミノ酸などの栄養素が深く関わっている「メチル化」という現象があるからです。そのため、葉酸やビタミンB6、ビタミンB12 、さらには、ある種のアミノ酸が不足したり、過剰になったりすると、遺伝子発現の度合いが変化するのです。
- 細川)
- どれかひとつの栄養素ではなく、ビタミン・ミネラルを含む、さまざまな栄養素が、新しい命を育むためには必須だということですね。中でも葉酸については、妊娠前・妊娠中の摂取が特に推奨されていますね。
- 福岡先生)
- 葉酸が不足すると、脊椎二分症や無脳症などの神経管がうまく形成されない先天異常が発症するリスクが高くなるために、厚生労働省も妊娠前から葉酸のサプリメント摂取を推奨しています。更に、葉酸の不足はそれだけに留まらず、子どもの健全な生育において多岐にわたる影響を及ぼします。
- 細川)
- 葉酸不足が、将来にわたって深刻な事態を引き起こす可能性があると。
- 福岡先生)
- はい。そして、葉酸は不足してはいけませんが、逆に過剰になってもいけません。妊娠中期に葉酸を過剰に摂取すると、お子さんにぜんそくなどのアレルギーが発症しやすくなるという論文がいくつか出ています。摂り過ぎるのも問題なのです。厚労省が推奨しているように、全妊娠期間を通じて1日に葉酸サプリメント400μgを摂ることがすすめられています。
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