不妊という状態の分かりづらさや不妊症の診断の複雑さも、「?」を増幅させてしまうのかもしれません。
なぜ妊娠しないのか、妊娠できないのか、その原因を知りたいと思われるのは、至極、当然のことです。
そして、原因が分からない限りは、的確な治療が受けられないのではと不安になるのも、また、当然のことと思います。
ところが、不妊の原因が分からないというケースはとても多いもので、ほとんどのケースでは原因が分からないといっても過言ではないかもしれません。
ふみこさんのように、検査の結果、ホルモンの数値が思わしくないことが分かると、そのせいで、それまで妊娠できなかったものと、当然、考えるのですが、だからといって、ホルモン療法を受けてもすぐに妊娠に至らないこともとても多いように思います。
もしかしたら、不妊の原因は複数で、その都度、変わってしまうのかもしれません。
さまざまな検査があって、妊娠を妨げている原因を探るわけですが、妊娠のプロセスは女性の身体の中で進むものですから、血液やホルモンの数値、外からの検査だけでは、そのプロセスの全ての過程をチェックすることには限界があるということを、知っておくことが大切なように思います。
また、人工授精による妊娠率は5~8パーセント、排卵誘発剤で複数の卵子を排卵させて人工授精を受けても10数パーセントくらいだと言われています。このように、そもそも人工授精による妊娠率は思うほど高くないことも知っておく必要があると思います。
正常に排卵があるかどうかは、基礎体温表や頸管粘液の変化といったセルフチェック、医師に 定期的にエコーで卵胞チェックを受けたり、ホルモン検査などで、ほぼ確認することが出来ます。
また、ちゃんと受精しているかどうかは、普通は卵管内で起こっていることですから、これは、体外受精を受けないとチェックしようがありません。
そして、着床障害があるかどうかは、最も分かりづらいところではないでしょうか。
たとえば、子宮内膜が異常に薄いとか、反対に異常に厚いとか、大きな子宮筋腫が着床を妨げる可能性が大きい場所にあるとか、重度の子宮内膜症のために子宮内に癒着がみられるとかのようなケースでは、受精卵の着床が妨げられる可能性があるでしょう。
ただ、それぞれの程度によっては、本当に着床が妨げられるかどうかは、経験豊富な医師の判断が必要です。
また、子宮内膜に何の問題もない場合、体外受精を受けて、良好な受精卵が得られて、何度か移植しても妊娠に至らないというようなケースでは、着床に問題があるかのように考えてしまいがちではありますが、受精卵に、染色体異常等の問題があったために育たなかったのか、着床に問題があったのか、確率的には受精卵側に問題がある場合の方が多いのではないでしょうか。
このように、絶対不妊と言われるようなケース、たとえば、全く排卵がない、もしくは、両側の卵管が完全に閉塞していて機能していない、そして、ご主人の精液中に精子が全くいないような場合を除けば、いずれも不妊かどうかは、相対的なものですので、本当に妊娠を妨げている原因を突き止めるのは困難なわけです。
さて、くれぐれも早合点しないでいただきたいのは、だからといって、不妊の原因が分からない限りは、妊娠が望めない、やりようがないといっているわけではありません。
分からないなりに、身体に負担のかからない方法から、治療をスタートして、不妊の原因があるのではと想定されるところを、順番につぶしていくのが一般的な考え方です。
それがステップアップという治療方針です。
この場合、もちろん、不妊の原因が分からないわけですから、どのあたりまで治療をステップアップして続ける必要があるのか、そのスタートにおいては分かりません。
要するに、どんな治療をどれくらい受ければ妊娠することが出来るのか予め知る方法はないのです。
ですから、1つの治療をある程度繰り返して、それでも妊娠できなかったら、他に不妊の原因があるものと判断して、次のステップに移るわけです。
これまでのデータでは、タイミング指導で妊娠される方は、だいたい、半年から1年くらいで、人工授精では、5~6回くらいまでに、妊娠されることから、同じ治療をそれ以上繰り返しても、妊娠の可能性は低いと考えられます。
ですから、人工授精を5、6回受けても妊娠に至らなければ、卵子と精子がうまく出会えていないのではないかと想定して、体外受精へのステップアップを検討したほうがよいということになります。
ただ、どうしても体外受精にステップアップするのに抵抗を感じるとか、さらに精度の高い検査を受けたいとのお考えであれば、腹腔鏡検査を受けるのが一般的です。
この検査は、腹腔鏡で、直接、お腹の中をみる検査ですので、これまでみつからなかった子宮内膜症やそれに伴う癒着がみつかることも少なくありません。
もしも、癒着等がみつかった場合は、そのまま治療を受けることも可能です。
ですから、腹腔鏡検査を受けて、もしも、不妊の原因がみつかった場合は、治療後半年程度自然妊娠を期待するという方法もあるわけです。
ただし、もしも、腹腔鏡検査でも異常がみつからなかった場合、あるいは、異常がみつかって治療を受けても妊娠に至らなかった場合は、結局、体外受精にステップアップすることを検討することになるわけですから、年齢的なことを考えて、数回の人工授精で妊娠に至らなかった場合は、体外受精へのステップアップを検討する方のほうが多いように思います。
いかがでしょうか?
最後に病院による治療の成功率の違いですが、これはなかなか難しい問題です。なぜなら、比べる材料が存在しないからです。
理屈のうえでは、必ず、手技が伴うわけですから、技術的な差が出ると考えられますが、いかんせん、全く同じ条件のもとでに実施したクリニック別の治療成績などありませんし、そのようなデータなど算出不能です。医師の手技以外に妊娠率を左右する要因が多いこともあります。
ですから、たとえば、経験が豊富な先生かどうか、あとは、ご自身で直接、ご覧になられて感覚的に判断するのが現時的ではないでしょうか。
大変長くなってしまいました。
もしかしたら、説明がくどくて、悲観的な雰囲気になってしまったかもしれません。
ただ、なかなか授からない原因が分からないことが多いのと同様に、反対に、授かったときには、たいていの場合は、なぜ、妊娠できたのかが分からないことがほとんどなように思います。
最後に、ご自身の身体を信じて、そして、ご自身の目で選らんだ先生を信じることが大切なように思います。
うまくいくことをお祈りしています。
ご参考になれば幸いです。
■このQ&Aについて読者の方から投稿いただきましたのでご紹介します(2007/4/14)。
》》》》読者の方からの投稿