エビデンスにもとづいた妊娠しやすい夫婦生活とは?

2010年10月25日

今回は、前回の「夫婦生活を最適化する」の"実践編"ともいうべき内容で、「エビデンスにもとづいた妊娠しやすい夫婦生活」についてです。

夫婦の夜の営みは、そのやり方について、正しいとか、間違っているなんてことはないわけで、それぞれのカップルで好きにやればいいわけです。

ただし、妊娠しやすいかどうかということになると、これまでの多くの研究によって、妊娠の確率が高くなる夫婦生活のやり方が明らかにされています。

それにもかかわらず、さまざまな誤解や思い込みがあるようです。

そもそも、夫婦の夜の営みは"秘め事"なわけですから、致し方ないことかもしれません。

そこで、妊カラでは、これまでいろいろな機会に、夫婦生活についての情報を発信してきましたが、改めて、特集してみたいと思います。

今回ご紹介する内容のベースにさせていただいたのは、さる、8月28日~29日の2日間、横浜で開催された「産婦人科臨床懇話会セミナー不妊治療2010」というドクター向けのセミナーで、梅ヶ丘産婦人科院長の辰巳賢一先生が講演された内容です。

辰巳先生には、妊娠しやすいカラダづくりのサイトのQ&Aにおいて、医学的な観点から監修いただいております。

梅ヶ丘産婦人科では、もちろん、最先端の生殖医療も実施されていらっしゃいますが、「それぞれの患者さんの必要最低限の治療で妊娠を成立させること」を基本方針に、一般不妊治療(人工授精までの不妊治療)において、高い治療成績をあげていらっしゃいます。

★エビデンスにもとづいた妊娠しやすい夫婦生活とは?

自然妊娠の可能性がゼロでなければ、エビデンス(証拠)にもとづいた妊娠しやすい夫婦生活を実践することで、妊娠の確率が高くなります。

誤解や思い込み、デマに惑わされ、時間やエネルギーを無駄にしないようにしたいものです。

■女性の月経周期中の妊娠の可能性のある時期

⇒ 妊娠可能な日は排卵日からさかのぼって6日間

英語では「Fertile Window」と表現されるように、妊娠への窓はいつも開いているわけではありません。

女性の頚管粘液が精子を迎え入れる状態になっていて、精子と卵子が受精能力のある間に出会える期間のみ妊娠が可能になります。

精子の生存日数は5日、卵子の生存日数は1日で、排卵日からさかのぼって6日間、すなわち、排卵5日前、排卵4日前、排卵3日前、排卵2日前、排卵前日、排卵日が妊娠可能な日となります。

■妊娠しやすい性交の日

⇒ 排卵日の3日前から排卵日までが妊娠しやすい日

⇒ 最も妊娠率が高いのは排卵前日と排卵2日前の性交

⇒ 排卵日当日の妊娠率はすでに低下している

最も妊娠しやすい性交の日は排卵日ではありません。

排卵日よりも、排卵日の前日、2日前に性交したほうが妊娠の確率は高くなります。

それは、女性の頚管粘液は精子の貯蔵庫として働き、射精された精子は頚管粘液の中に蓄えられ、持続的に卵管に送り出されるからではないかと考えられています。

■妊娠しやすい性交の頻度

⇒ 毎日性交した場合の周期あたり妊娠率は37%

⇒ 隔日性交した場合の周期あたり妊娠率は33%

⇒ 週に1回性交した場合の周期あたり妊娠率は15%

毎日性交すると妊娠率が最も高くなります。

毎日、もしくは、隔日の頻度で性交するのが妊娠率が高くなりますが、週に1回のペースになると、妊娠率が低くなります。

■射精の頻度と精液の質

⇒ 毎日射精しても精液の質、精子濃度、運動率に変化はない

⇒ 乏精子症でも精子濃度や運動率は毎日射精した場合に最も高くなる

⇒ 5日以上の禁欲は精子濃度の低下をもたらす

毎日射精すれば、精液の質が低下すると誤解されていることが多いようですが、毎日射精するほうが、新鮮な精子が増え、精液の質が高まるようです。

反対に長い禁欲期間は精液の質を悪化させます。

■排卵日の予測

⇒ 頚管粘液の変化をみるのは排卵日の推定に安価でよい方法である

⇒ 頚管粘液は排卵が近づくと、透明になり、つるつるしてくる。

⇒ 頚管粘液は排卵の2、3日前に最も多くなり、最も妊娠しやすくなる

頚管粘液の変化をみて、妊娠しやすい性交の日を知るのが最もよい方法です。

基礎体温表からは、その周期の排卵日を知ること、予測することは出来ません。また、基礎体温が最も下がった日が排卵日ではありません。

性交の回数の少ないカップルにとっては、尿中LH測定キット(排卵検査薬)を使うメリットがあります。

その場合でも、排卵日に性交するよりも、排卵前日、排卵2日前と思われる日に性交するのが最も妊娠しやすくなります。

■性交の方法

⇒ 性交後しばらく仰臥位でいると妊娠の可能性が上がるということはない

⇒ 性交時の体位と妊娠率には関係がない

⇒ 女性のオーガズムは妊孕性を向上させるかどうかは不明

射精後、精子はすみやかに子宮頚管に移動しますから、性交時の体位や性交後の姿勢が、妊娠率を左右することはありません。

女性のオーガズムによって、精子が卵子と出会いやすくなるとの報告もありますが、実際に、妊娠率の向上に寄与するのかどうかは不明です。

★まとめとして

妊娠しやすい夫婦生活については、誤解していることや思い込みが少なくありません。

通院をはじめると、まずは、タイミング指導からはじめられるのが普通ですが、ドクターでさえ、排卵日に夫婦生活をもつように指導されることが珍しくないようです。

たとえば、数日間禁欲して精子をためて、排卵日と思われる日に性交し、性交後はしばらく仰向けの姿勢を保つというやり方は、明らかに正しくありません。

よくお分かりいただけたかと思います。

もしも、通院していないカップルにとっての妊娠しやすい夫婦生活は以下の通りです。

★月経周期が正常な女性の場合

⇒ 月経終了後頃から毎日、もしくは、1日おきに性交する。

★月経周期が不順な女性の場合

⇒ 頚管粘液の量が増え、透明になり、つるつるしだしたら、毎日、もしくは、1日おきに性交する。

いかがでしょうか?

排卵日を特定することや排卵日に性交することにこだわるのは、さほど意味がないようです。

妊娠のためのエビデンスや原則を知って、あとは、自分たちの環境にあわせて工夫するのがいいように思います。