昨今のマスコミの報道によって、「卵子の老化」や「男性不妊」という言葉は世間に広く知られるようになりました。ただし、卵子は老化する!ということや男性不妊は多い!ということは知られるようになっても、そこから一歩踏み込むと正しく認識されているとは言い難い状況です。この本は、これまで日本で最も多くの男性不妊の診療にあたってこられた専門医によって、お子さんを望まれるカップル、心あたりのある男性にとって男性不妊について知っておきたいことが一冊にまとめられた本です。
"片手落ち"な妊活や不妊治療に陥らないために
性交はカップルで行うものであり、妊娠は質のよい卵子と質のよい精子が一緒になってはじめて可能になることは誰にでも理解できると思います。当然、不妊の原因も男性側、女性側、約半々であるとされています。
ところが、お子さんを望むカップルがはじめからそのことを理解し、行動しているか、精液検査で男性側に問題があるとわかった場合、適切な診療や治療が施されているか、はなはだ疑問です。
最も大きな原因は「環境」、すなわち、ほとんどの不妊治療クリニックでは女性不妊を専門とする婦人科や産婦人科のドクターが診療にあたっており、男性不妊を専門とする泌尿器科のドクターにかかる機会が限られているということです。
そのため、精液中に全く精子がいない無精子症のような重度の男性不妊でない限りは、男性に問題があった場合でも、人工授精や体外受精、顕微授精などの治療を女性側に施されるのが普通です。
つまり、男性不妊は「スルー」されているというわけです。
当然、不妊治療はお子さんを授かることが目的ですから、妊娠、出産できれば、それはそれでよいのかもしれません。
ただし、男性側にホルモン異常や精索静脈瘤など、治療が可能な疾患が隠れているかもしれません。また、軽度の男性不妊でも抗酸化剤などで精子の質が改善される可能性もあります。
そのようなケースでは、男性側への適切な診療と治療、ケアによって、女性側への治療が不要になったり、より負担の軽い治療で妊娠を目指せるようになる可能性が高くなります。
これまで感じていた問題を整理してみると、
◎検査のタイミングが同時でなく、女性に無駄な治療が施されることがある
◎精液検査方法が標準化されていないため結果のバラツキが大きい
◎男性の妊娠させる力が精液検査だけで評価されている
◎男性側に診察や適切な治療が施されていない
◎女性に回避が可能かもしれない治療負担を強いることになることがある
◎男性不妊に隠れた疾患が見過ごされている可能性がある
◎選択肢についての情報が乏しく、カップルの自己決定が困難である
繰り返しますが、これらの原因の一つに、男性不妊を専門とされる泌尿器科医の数が少ないという現実があります。
そのため、カップルが"片手落ちな"妊活や不妊治療にならないためには、男性不妊についての正しい知識を得て、自らが環境を求めることが現実的な対策になります。
そのための指南書がこの本です。著者は、日本で最も多くの男性不妊患者の診察、治療にあたってこられた、獨協医科大学越谷病院泌尿器科主任教授で、リプロダクションセンター長の岡田弘先生です。
(推薦者: 細川忠宏)