新年度がスタートしました。
桜は満開で、 気持ちもリフレッシュし、まさに新しい生命の息吹きを感じることが出来る季節です。
この季節は、動物にとっても新しい生命を育む時です。
ほとんどの動物が、草木が繁り、エサが豊富な春という季節に子供を産むのは、生まれ来る子供たちを育むのに最も適した季節だからで、生き物が、自然界で生き延びていくための適応であると言えます。
そして、このタイミングにちゃんと発情するのは、日照時間の変化を動物のカラダが敏感に感じ取り、1年の内のある特定の時期に交尾活動を起こさせるように、生殖ホルモンの分泌がコントロールされるというメカニズムによるもの、 だそうです。
「生命をあやつるホルモン」という本が、日本比較内分泌学会の編集で、講談社のブルーバックスから出版されていて、詳しく書かれていました。
新しい生命の誕生のこと、妊娠のことをあれこれ考えていると、いろいろな生き物が新しい命を育むメカニズムについつい興味を持ってしまいます。そして、生き物のカラダのメカニズムは、自然界の環境の変化に強く影響を受けるものだと
つくづく、 驚かされます。
IVF(体外受精)の成功率は夏が高い
そして、やっぱり、というべきでしょうか、不妊治療における体外受精の成功率は、日照時間の長い季節のほうが高い、という調査結果が発表されました。
イギリスのBritish Fertility Society Conference(英国生殖学会)の年次総会で、リバプールとチェスターの研究チームが、1997年から2001年の間に実施された、3000周期の体外受精について調査した結果を発表したものです。
それによると、夜間よりも昼間の時間が長い、日照時間の長い季節のほうが、より少ない量の排卵誘発剤で排卵を起こすことが出来、この季節のほうが、妊娠の成功率が高かったとのこと。
具体的には、5月から9月のIVFの成功率が20%だったのに対して、日照時間が短い、11月から2月のそれは、16%だったようです。もちろん、採卵された卵子の質や受精卵の移植に問題の見られなかったケースにおいてです。
この調査結果に関して、研究チームは、 他の哺乳動物が春に出産することと生物学的に同じ理由によるものではないかとしています。
研究チームの医師であるチェスター病院のサイモンウッド氏は、メラトニンというホルモンが関係しているのではないか、 と指摘しています。
メラトニンは、夜に分泌されることから、日照時間の長さを生殖システムに伝える役割を果たすと考えられています。
人間のカラダは季節によって変化しないものですが、生殖システムは、全ての哺乳類に共通な原始的なメカニズムの影響を受けているのかも知れない、ということです。
それは、とりもなおさず、この季節に子供を産んだほうが得策である、という生物学的理由からだそうです。
ただし、研究チームは、夏のIVFの成功率は高いのは確かであるが、だからと言って、冬には妊娠しないと言う訳ではないので、冬にはIVFを行うな、というほどのこともない、と語っています。
季節による不妊治療の結果に差があることは、以前から言われていたようですが、それは、単に暖かい気温のためではないかと考えられていたようです。
統計からの季節別出生数も夏に多い傾向が
不妊治療の成功率が季節によって変動するのであれば、自然な妊娠も季節による影響を受けるはずです。
そこで、月別の出生数を調べてみました。
厚生労働省の人口動態統計特種報告の中の「出生に関する統計」の概況の平成元年以降の月別にみた出生というデータを見てみると、やはり!ありました。 「出生月による差はほとんどない」としながらも、「7~9月に高く、3月が低い傾向がみられた」としています。
人間も自然の一部
考えてみれば、「人間が妊娠する」ということを考える場合、脳と卵巣や子宮などの生殖器官との間で生殖ホルモンのやりとりがあって、排卵、受精、着床、分割が進むというカラダの中のプロセスのみを とらえて、考えてしまいがちです。
そして、なかなか妊娠しない、となった時にも、どのプロセスが働いていないのかを心配します。
ところが、実際にはカラダの外側の環境の変化に少なからず影響を受けていることが分かりました。
そんなことは普段の生活ではなかなか感じる機会がありません。物事は極端なところを見てみると分かりやすいものです。
例えば、太陽が登って、沈むというサイクルから全く遮断されたら、どうなるのでしょう。
ある女性が洞くつで4ヶ月過ごし、その女性がどうなるかを観察した実験があります。
35時間起き続けた後、睡眠を10時間とるというパターンを繰り返し、その結果、体重は7.7kgも減り、月経は止まったそうです。
さらに、地下で4ヶ月も過ごしたのに、彼女自身は2ヶ月しか経っていないと思い込んでいたそうです。
酷い実験ですが、朝、昼、夜というサイクルが生殖システムを機能させていることがよく分かります。
まさに人間のカラダは、自然の一部というか、 自然そのもの、であると言えます。