編集長コラム

細川 忠宏

66歳の女性の出産報道に見る"大きな勘違い"

2005年01月22日

66歳の女性が女児を出産したことは、新聞やテレビ等のニュースで話題になっていますから、ご存知の方も多いでしょう。

なに~!、66歳? 30代の私でも、こんなに苦労しているのに!
なんて、思わず、そんな不合理さを嘆いた方もおられるかもしれません。
私もこの新聞やテレビの報道をみて、「?」と感じるところがありました。

このニュースは、ルーマニアで66歳の元大学教授の女性が、女児を出産したとのことで、出産年齢としては世界最高齢の記録であるというものでした。

ただし、健康な若い男女から卵子と精子の提供を受け、体外受精させた後、66歳の女性の子宮に移植したもので、これまで9年間の不妊治療の末の成功だったと言います。

また、男女の双子を妊娠したものの、男児は死亡、女児のみ、帝王切開の末に1,900グラムで出産したそうです。

ところが、新聞やテレビの報道では、単に、66歳の女性が、世界最高齢記録で出産に成功した!
という表面的な事実にのみ、スポットを当てるばかりで、それ以外のこと(卵子も精子も提供を受けていること)は、スッポリと抜け落ちていました。

朝日新聞に至っては、"人工授精"による、などと誤って伝えられています。

これでは、不妊治療というのは、66歳の高齢の女性でも妊娠、出産を可能にしてくれる、まるで、"魔法の杖"であるかのような、そんな、誤った認識が、ますます、助長されるばかりです。

そして、このことは、その時が来れば、治療を受ければ何とかなるだろうと、仕事のキャリアやその他の事情で妊娠を先送りしている女性に、間違った期待を抱かせかねません。

今回、66歳の女性が妊娠、出産に成功した根本的な要因は、"不妊治療"を受けたからではなく、若い男女から、"質の良い卵子"と"元気な精子"を、提供してもらったからです。

さらに、大きなリスク(母子ともに)を覚悟の上で、帝王切開しても、双子の内のひとりは死亡、生まれた女児も1,900グラムと通常の半分の体重しかなかったそうです。

妊娠するために、最も必要とされる条件は、"質の良い卵子"と"元気な精子"が出会うこと、です。

この条件が整えば、 少々、タイミングがずれようと、年をとっていようと、卵管の通りが悪かろうと、要するに、少しくらい"障害"があっても、それを克服して妊娠するものです。

ということは、30代、40代で、なかなか妊娠しないことに悩む女性がとるべき手段は、あれこれ、検査を繰り返し、少しの障害もみつけて治療に励むのも必要かもしれませんが、それよりも、少々の障害なんか、克服してしまえるような、そんな"良好な卵子"を育むカラダを作ることこそ、大切なのです。

そして、それは、治療によるものではありません。
薬や注射や外科治療では、卵子の質を改善することは出来ません。

不幸にも、間違った治療にかかれば、かえって、質を低下させてしまう事さえ、あり得るのです。
卵子を良好な状態にし、 元気な精子を数多く育むのは、カラダに本来的に備わっている"生殖力"に他なりません。

そんな、自然治癒力を高めるのは、生活を見直すこと、ライフスタイルや食生活を変えることです。

いや、その前に、"意識"を変えることから、です。

現代社会では、つい、この30年ほどで、人類が誕生してこのかた、何万年も繰り返してきた生活スタイルや食生活を、快適で、便利で、手っ取り早いスタイルに大きく変化させてしまいました。

それは、表面的には豊かな社会を実現したかのようにみえますが、快適さ、便利さは、綺麗さは、人間に自然に備わった力を、大きく低下させてしまったようです。

たまたま、妊娠する力が低下気味であるということは、そんな事を気づかせてくれるチャンスかもしれません。

これを機会に、今一度、不自然な生活をより自然なものに、見直すことから始めるべきです。