今週の木曜日に日本産科婦人科学会による調査報告、「平成14年分の体外受精・胚移植等の臨床実施成績」が発表されました。
毎年、全ての登録施設を対象に、体外受精の実施状況やその成績を調査、集計したものです。
まずは、気になる治療成績をみてみましょう。
新鮮胚を用いた体外受精・胚移植では、移植総回数は、26,708、移植あたりの妊娠率は、28.9%です。
妊娠あたりの流産率は、23.8%ですから、妊娠してから4人に1人弱が流産しています。
妊娠あたりの多胎妊娠率は、17.3%で、その内、双子が、90.1%、三つ子が、8.6%となっています。
そして、移植あたりの出産率は、19.7%でした。
数字だけをピックアップしますと、妊娠したものの流産された方が、23.8%、双子以上の妊娠は、17.8%、そして、移植して無事、出産した方は、19.8%です。
いわゆる、治療の成功率は約20%というところです。
ただし、これはトータルの数字です。
女性の年齢によって、この数字はかなり変動します。
ですから、治療成績に関する数字はあくまでも目安と考えるべきです。
次に、ニュース等でも報道された累計の出生児数です。
日本国内でこれまで体外受精による出生児の累計が、10万人を突破したというものです。
平成14年末の時点ですから、既に2年経過した現在では、おそらく、13万人は超えていることは間違いないはずです。平成14年に生まれた子供の総数が、115万3,855人で、その内、体外受精で生まれた子供は、1万5,223人ですから、なんと、全体の1.3%、76人に1人が体外受精で生まれているのです。
これは、高度な生殖補助医療、要するに、体外受精や顕微授精によって生まれた子供の数だけですから、人工授精も含めて、何らかの形で不妊治療を受けることで生まれた子供は、確実に、この何倍もいるはずです。
ということは、不妊治療で生まれた子供の割合となると、そんな調査結果はありませんが、ひょっとしたら、10人に1人くらいの割合に近づいているかもしれません。
そして、年々、増えています。
いかがでしょうか?
成功率に関しては"予想以上に低く"、そして、数に関しては"予想以上に多い"というのが、正直なところではないでしょうか。
今度は、生まれくる子供への"リスク"です。
体外受精で生まれた子供の先天性障害のリスクは、自然妊娠で生まれた子供に比べ、40%も高まるという調査結果が、オーストラリアから報告され、生殖医学専門誌「Human Reproduction」に掲載されています。
排卵誘発剤を使って、強制的に排卵を促し続けたり、卵子や精子を体外に取り出して受精させ、戻すという、本来では有り得ない人為を加えることによって、自分のカラダへの負担は、覚悟が出来ているものの、生まれくる子供への影響については、どうしても心配なところです。
発表された論文では、 先天性の異常の発生リスクが40%高まるとのこと。
一見、大変なことのように思え、慌ててしまいそうですが、もとになる自然妊娠の発症割合を確認してみないと、本当のところは見えてきません。
例えば、自然妊娠で二分脊椎や無脳症等の神経管閉鎖障害は1万人に6人、口唇・口蓋裂では、500人に1人の割合で生まれています。
体外受精によって発症リスクが40%高まるということですから、それぞれ、1万人に6人から8.4人に、500人に1人から500人に1.4に増えることになります。
このように、もともとの割合が低率である場合には、たとえリスクが2倍(過去の論文)になったとしても、依然として、全体から見れば、それほど、心配するような割合にはならないということが分かります。
不妊に関するさまざまなことは、当事者になって初めて知ることがほとんどです。
或いは、他人事として眺めているのと、当事者として見るのとでは見える景色が違ってくるものです。
元来が夫婦の間の最もプライベートなものですし、特に、男性にとっては、"行為"の後、女性のカラダでどんなことが起こっているのかは、全く知識として持ち合わせていないものです。
そんなこんなで、 世間では、人工授精と体外受精の区別さえ、ままならないのです。
不妊に悩む当事者でさえ、 無知や誤解、思い込みに満ちているものです。
そして、無知や誤解、思い込みからは、後悔しない選択、判断はままなりません。
不妊改善というのは、 そんな無知を克服し、誤解や思い込みを解きほぐしながら、夫婦間で考えや希望、意志を確認しあい、摺り合わせていくものであることがよく分かります。
まさに、"協同作業"と言えるのではないでしょうか。