編集長コラム

細川 忠宏

メラトニンの摂取で生殖障害?

2005年02月12日

メラトニンは、不眠症や時差ぼけに効果的なサプリメントとして、アメリカでは大変な人気です。
そのメラトニンを摂取することで、生殖障害が起きる可能性があるとの研究結果が発表され、研究者はメラトニンの使用には注意が必要と警鐘を鳴らしています。

実は、このメラトニン、日本では食品として認可されていません。医薬品の分類で、かつ、薬としても未認可の合成ホルモンです。ところが、現実にはネットや通販の個人輸入でバンバン使われていますので、ご存知の方も多いと思います。

因に、アメリカではサプリメントですが、フランスやヨーロッパ諸国では、医薬品で、それも医師の処方箋が必要な薬です。

少し、話しが横道にそれますが、同じ成分でも、このように国によって、サプリメントであったり、薬局で買える薬であったり、医師の処方箋がなければ手に入らない薬であったりします。

今、人気の、老化を遅らせるという触れ込みのコエンザイムQ10も、つい、この間(2001年4月)迄は心臓病の薬だったのです。
その他、話題のL-カルニチンにしろ、リポ酸にしろ、世の流れとしては、"規制緩和"で、どんどん、医薬品から食品へ衣替えしているものが出てきています。

ところが、厚生労働省が、今日からこの成分は薬ではなくて食品です、と法律を変更したからといって、成分自体は何ら変わりはなく、それ迄、薬としていた理由も依然としてある訳です。

規制を緩和するということは、これからは、"個人の責任で調査、判断して下さい"ということであって、その成分が大根やニンジン等と同じ様に安全な食品であると、お墨付きを与えた訳では、決してありません。
ですから、利用に際しては、慎重に検討する必要があります。
使い方次第ではいろいろなリスクが存在する事を忘れてはなりません。
自己責任、というやつです。

本題に戻ります。

今回の研究報告について説明を補足しますと、実は、もともと、メラトニンには、下垂体からの生殖腺刺激ホルモンを抑制し、排卵を止めるという避妊効果があることは知られていて、メラトニンを使った避妊薬の開発が期待されていたほどです。

それでは、今回の研究で、新たに何が分かったのでしょう。
それは、ウズラを500羽使った実験によって、メラトニンと生殖腺刺激ホルモンの間に介在する、新たな脳内ホルモンの存在を突き止め、その脳内ホルモンを「GnIH」と命名したのです。

そして、メラトニンが、「GnIH」の合成を促進し、その「GnIH」が、生殖腺刺激ホルモンの分泌を抑えるメカニズムを実証しました。

一応、ウズラで確認されたということなのですが、人間にも存在する可能性が大であるとのこと。

卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)等、妊娠するために欠かせない生殖ホルモンの分泌を抑えるホルモンが、発見されたというのですから、驚きです。なんでも、この生殖腺刺激ホルモン抑制ホルモンがあるだろうことは、だいたい予測されていたようです。そして、その存在を確認するのに、日米欧の研究者で熾烈な競争があったそうです。

そんな、嬉しくないホルモンがあるということもさることながら、普段は、ついつい、忘れがちなことですが、未だ、人間は、自分達のカラダの生殖活動の全貌を、完全には把握出来ているわけではないことを、今更ながら実感しました。

排卵誘発剤を使って、人為的にホルモン環境に働きかけた場合に、かえって、自然なホルモンバランスを崩してしまい、副作用に苦しめられる場合が、ままあることも、そういう視点から見ると、よくよく理解できます。

ある意味、下手に手を出すと火傷しかねないような、精密で、精巧なシステムなのかもしれません。

機能性不妊(原因不明)だなんて、医師から宣告されて、自分のカラダが、"欠陥品"であるかのような気持ちになったと、これまで、何通もメールを頂きました。
でも、それって、よくよく考えてみると、とんでもないことですよね。
単に、原因を見つけられないだけのことです。

例えば、感染症であれば、そのウイルスをやっつけてしまえば済む話です。
簡単なことではないのかもしれませんが、ある意味、単純なものです。

ところが、複雑で、精巧で、絶妙なバランスの上に成立していて、ともすれば、デリケートで脆い、 神秘的とさえ言える、そんな生殖システムを相手にする場合は、人間の手で下手にかき回すよりも、これも人間に、本来的に備わった自然治癒力をもっと磨くべきなのかもしれません。

そんな自分の持つ"復元力"をもっと信じても良いのではないでしょうか?