不妊治療におけるリスクに関する調査報告が報道されますと、必ずと言っていいほど、読者の皆さんからリスクがあることに目覚め、募る不安を訴えられるメールを頂きます。
リスクへの不安が過度に大きくなると、精神的に不安定になってしまい、治療成績にも影響を及しかねないこともまた、アメリカの調査報告で明らかです。
それはそうかもしれないけれども、念願の子供に障害がある危険性が高まるなんて言われると、気が気ではありません。
かと言って、危険性があるにもかかわらず、それ対して、耳を塞いでしまう訳にもいきません。
いったい、どうすればよいのでしょうか?
リスクがゼロ、は有り得ない
考えてみれば、 何らかの行動を起こす場合、常に、何らかの危険はつきものと言えます。
要するに、何をするにしろ、リスクがゼロであることはありません。
そんな時には、たいがい、私たちは、無意識に、予想されうる危険と、その行動によって得られる恩恵や利益を天秤にかけているものです。
それでは、今回の報道にあったケースについて、考えてみることにしましょう。
リスク(危険)を、より現実的に感じられるように見る
まずは、胚盤胞移植によって、胎児障害の危険が高まるということですが、詳しくみてみましょう。
今回、指摘されたリスクとは、 二卵性双生児が一つの胎盤を共有するという、特殊な妊娠の形態が起こり得る確率が、 胚盤胞移植をすることで、自然妊娠に比べて、 11.3倍になるというものです。
このような形態の妊娠では、 死産や脳障害につながる恐れがあるとしています。その確率は、約20~60%が死産、 10~25%は脳障害が残るそうです。
ニュースのタイトルだけみると、 ショッキングです。
さらに、障害児が生まれる確率が、自然妊娠に比べて、11.3倍という数字を示されると、より具体的になります。
ところが、11.3倍という数字だけに捕われると、 不安が一人歩きしてしまいます。
11.3倍の元になる数字を確認しなければなりません。
自然妊娠で、このような妊娠形態になる確率は、0.3~0.4%の確率とされています。ということは、1,000組の夫婦が妊娠して、 3~4組の夫婦に起こり得るということです。
そして、胚盤胞移植による妊娠の場合では、1,000組のうち、33.9~45.2組ということになります。3.39~4,52%です。 100組中、3~4組ということです。
いかがでしょうか?
少し、現実的に把握できるようになってきたでしょうか?
ただし、これでも、まだまだ、大雑把です。
というのは、この特殊な形態の妊娠というのは、 多胎妊娠だからです。
ということは、移植する胚盤胞の数によって、多胎妊娠の確率が大きく異なってくることも考えておく必要があります。
胚盤胞移植の場合は、 体外受精時の一般的な2日目の受精卵の移植に比べて、少ない数を移植する傾向にはあるものの、3個の胚盤胞を移植するクリニックも少なくないようです。
ですから、移植する胚盤胞の数が、3個なのか、2個なのか、 はたまた、1個なのかによっても、多胎妊娠自体の確率が大きく変わってきますから、これも考慮に入れておく必要があるということになります。
このように、一見、ショッキングなニュースも、掘り下げて見ていくことで、決して、一か八かの賭けではないことがお分かり頂けたかと思います。
ベネフィット(恩恵)は?
恩恵となると、これはもう誰でもすぐに理解出来ますね。
自然妊娠では、絶対に妊娠が不可能とされていた状態でも、妊娠の可能性が得られるのです。
これは、とっても分かりやすいものと言えます。
ただし、これもリスクと同様です。今度は、治療を受けることで、 必ず、妊娠するとは限らないということで、可能性が、手に入るということです。
ですから、その可能性を具体的にみておく必要があります。クリニックの治療毎の妊娠率もチェックしておくべきです。
ここでも気をつけるべきは、 数字が変動する要因は、必ず、複数あります。
どれ一つとっても、 同じ状況にある夫婦というのは有り得ませんが、可能な限り変動要因を考慮に入れて、その可能性を、現実的につかむようにしましょう。
リスクとベネフィットを比較することで判断基準とする
そして、リスクとベネフィットを天秤にかけてみましょう。
それぞれのご夫婦の状況によって、 天秤の傾き具合は、いろいろでしょう。
同じ数字でも、人によって、大きいとみるか、小さいとみるか、それぞれの価値観によって異なってきます。
ベネフィットに傾いているのであれば、 治療のゴーサインを出すべきですし、リスクに傾いているのであれば、もう少し、慎重に考えてみるべきでしょう。
また移植する受精卵や胚盤胞の数を少なくすることで、天秤がベネフィットに傾くのであれば、先生と移植する受精卵や胚盤胞の数をしっかりと相談するべきです。
不妊治療を、安易に考え過ぎず、警戒し過ぎず
このように、不妊治療を受けることのリスクとベネフィットを、自分達なりに、ちゃんと明らかにして、天秤にかけてみると、本当に、自然妊娠の可能性がゼロもしくは、ゼロに近いので、高度な不妊治療に頼らざるを得ないのかを、慎重に考えるようになるでしょう。
また、逆のケースもあると思います。
それは、体外受精等の不妊治療のリスクを過大にとらえてしまうことで、治療を受ける必要があって、自分達もそれを望んでいるんだけれども、不安で不安でたまらないというケースでも、少しは、冷静に考え、対処できるようになるのではないでしょうか。