3胎(三つ子)以上の多胎妊娠の4割で、減数手術が行われていること、また、体外受精で母体に戻す受精卵の数が、平均3.1個で、なかには、10個というケースもあったとのこと。
徳島大学が全国の主な病院へアンケート調査によって判明しました(※1)。
減数手術とは、三つ子以上の多胎妊娠の場合に、胎児を子宮内で死亡させ、数を減らして出産させることです。
胎児を人為的に殺してしまう減数手術は、"原則として"は、もちろん、認められていません。
ただし、三つ子以上で母子の生命が危険にさらされるようなケースでは、容認されています。
そのため、出来るだけ多胎妊娠を避けるため、日本産婦人科学会の会告では、体外受精時に母体に戻す受精卵を3個以内としています。
ところが、体外受精を受ける側からすれば、それまで治療をステップアップしてきて受ける治療な訳ですから、少しでも妊娠の確率を上げたいと望むのは、当然の人情で、多胎妊娠を歓迎する気持ちさえあるというのが正直なところでしょう。
さらに、多胎妊娠には、胎児の数が多くなればなるほど、妊娠中毒症や早産、未熟児等のリスクも飛躍的に高まり、母子ともに、生命を危険にさらすことになるのですが、そんなリスクを承知の上で、かつ、敢えて、学会のルールを無視してまで、複数の受精卵を移植するのは、ひとえに、患者の子供が欲しいという気持ちになんとしても応えたいという、これもまた、医師としての当然な気持ちといえるのかもしれません。
ですから、ここで問題なのは、4割も減数手術を行っているということでもなく、学会で決められた数以上の受精卵を移植していることでもありません。
問題に思うのは、事前に、多胎妊娠の可能性とリスク、そして、多胎妊娠になった際に減数手術が必要になる可能性についての説明が、ほとんどなされていないという事実です。
国立成育医療センターが、全国の不妊治療施設の説明文書を調査して判明したものです(※2)。
これでは、不妊治療に携る医療者は、「成功率さえ上げれば良い」、という"妊娠率至上主義"に、陥っていると言われても仕方ありません。
近頃、盛んに言われる"インフォームドコンセント"とは、いったい、どういうことなのでしょう?
インフォームドコンセントとは、「患者が治療を受けるのに、病気や治療方針について、医師から十分な説明を受け、患者自身がその内容を十分理解し、納得した上で、患者自身の意思で治療を選択し、同意すること」とされています。
ところが、不妊治療において、"十分な"説明とは、何をどこまで説明すれば十分なのか、どこにも規定されていません。
これでは、インフォームドコンセントなんて、絵に描いた餅と言わざるを得ません。
たとえ、妊娠という共通、かつ絶対的な目標があるとは言え、治療を受ける側の夫婦の人生観や価値観によって、子供を欲する気持ちがどれくらいのものなのか、大きく異なるものです。
だからこそ、不妊治療におけるインフームドコンセントというものは、一般的な病気の治療にはない意味合いが、少なからずあるように思います。
当分は、治療を受ける側が、"十分な情報"を自らの手で集めるしかなさそうです。
※1)
徳島大学の女性医学の苛原稔教授らのグループが、不妊治療を行っている全国の主な病院588施設に、2000年から2002年までの3胎以上の妊娠について、アンケート調査を実施、264施設から回答を得た。
※2)
国立成育医療センターの掛江直子成育保健政策科学研究室長らのグループが、2004年2~8月に全国の不妊治療施設のうち、説明文書の提供要請に応じた83施設を対象に実施した調査。