編集長コラム

細川 忠宏

妊娠スイッチのОNとОFF

2005年09月02日

よくある"奇跡"

一昨日、ある方からメールで妊娠の報告を頂きました。
不妊期間が8年で、 その間、受けた治療はAIHが9回、IVFが5回ということなのですが、なんと!、自然妊娠されたというのです。
治療を休憩していた間のことだったそうで、主治医の先生も「奇跡的だ」と、喜びながらも複雑な表情で首をひねっておられたそうです。

高度な治療を受けても妊娠しなかったのに、ひょこっと、自然妊娠するという、 そんな、"奇跡的な妊娠"は、実は、よくあります。

或いは、子供が出来ないのだけれども、諸処の事情から不妊治療を受けずに、結婚後10年目に、突然、妊娠するなんてことも、やはり、あります。

生命の神秘さ、偉大さを実感する時でもありますが、とにかく、"奇跡"は、よく起こります。

くれぐれも誤解しないで頂きたいのは、高度な治療を受けても妊娠しなくても、必ず、自然妊娠出来るとか、治療を受けなくても、 いつか、必ず、自然妊娠出来ると言っている訳ではありません。

生命の誕生に際しては、 予想外のことが起こることがあるということです。

もしかしたら、"奇跡的"とは言えない頻度かもしれません。

妊娠を妨げる要因の多様性と複合性

今年の5月に「Biology of Reproduction」という生殖医療専門誌に、興味深い記事が掲載されました。

それは、ハムスターの実験で、タバコが、卵管が卵子や受精卵を運ぶ力を低下させ、受精や妊娠が起こりにくくさせることが判明したというのです。

興味を引いたのは、タバコの害もさることながら、妊娠を妨げる要因は本当に色々ある、ということでした。

普通、卵管因子と言えば、性感染症や子宮内膜症なんかで癒着や炎症がおこって、卵管が閉塞したり、通過性が低下してしまうことをイメージしますが、そんなケースだけではないようです。

排卵された卵子や受精卵は、自力で移動するわけではなくて、卵管の内側の"繊毛"という毛のような組織によって、運ばれるそうなのですが、この繊毛の動きに支障がおきると卵管の通過性に問題がなくても、卵子や受精卵が移動出来なくなって、受精や妊娠が妨げられ、不妊の原因になるというのです。
このような卵管の内側で起こっていることは、通常の検査では発見しようがありません。

今さらながら、不妊原因の多様性と複合性を実感させられるものです。

不妊症を正確に把握することが難しいのは・・・

さて、いわゆる"奇跡的"としか言いようのない、予想外の妊娠が起こり得るのは、 あくまで、推測ですが、不妊の原因がいろいろ複数あって、かつ、それらは固定的ではなく、その時々で、異なるからではないでしょうか?

そのように考えないと、到底、説明がつきません。

イメージ的にはこうです。

妊娠が成立するためには、さまざまな条件が全てクリアする必要があるのですが、それは、それぞれの条件のスイッチが全て"オン"になった時です。

ところが、その中のスイッチが、1つでも"オフ"になると妊娠は成立しません。

そして、オフになるスイッチは1つではなく、また、常に同じスイッチがオフになっているわけでもなく、オフになるスイッチは、時として、変わるのです。

さらに、どうなれば、オンになって、どうすれば、オフになるのか、明確な目安がなく、たまたま、オンになったり、たまたま、オフになったりすることがあるのかもしれません。

不妊治療特有の悩ましさ・・・

いかがでしょうか?

不妊検査の精度がいい加減であると言いたいわけではありません。

人間のカラダには"曖昧な面"があるということを知って欲しいのです。

予想外の妊娠が起こることだけでなく、不妊治療の成功率の低さ、どうしても不妊治療が長引いてしまうことがあること、そして、不妊症を正確に理解し、的確な対策を講じることが、案外、難しい場合があることも、多少は理解しやすくなるのではないでしょうか。

不妊の原因を追求し過ぎると、時として、ストレスを溜めてしまうだけに終わることもあるでしょう。

もちろん、全ての不妊症がこのように複雑で、分かりづらいものではありません。

もしも、あなたが、不妊期間が長引いていて、何周期も結果が伴わない治療に、どうにもくじけそう・・・、そんな状態なのであれば、少しは、頭を整理し、前を向けるきっかけになればとう願いを込めて、書いてみました。