「家族をつくる」という本を読みました。
サブタイトルに、「提供精子を使った人工授精で子どもを持った人たち」とある通り、重度の男性不妊のために、第三者からの提供精子を使った人工授精でお子さんを授かったカップルが、自分たちの経験について、語り尽くしています。
第三者から精子提供を受けてお子さんを授かったカップルの生の声を、これだけきちんと編集された形で読むのは初めてのことで、当事者でない私でさえ、それはもう、何回も心を揺さぶられました。
この本の一番の特長は、この分野の第一人者である著者が、提供精子で子どもを授かったカップルが、どのようにお子さんを"授かったのか"ではなく、どのように健やかな家庭を"築いたのか"に焦点を当てていることです。
つまり、授かった後のこと、です。
父親とは遺伝的なつながりがないわけですから、子どもを育てていく上で、いろいろとデリケートな問題があることは容易に想像できますから、当然と言えば、当然かもしれません。
そして、著者は、健やかな家庭を築くためには、"隠しごとをしない"ことだと言うのです。
要するに、提供精子で授かった"わが子"に事実を話す、と。
驚きました。
普通、こんな場合、子どもには、絶対に、隠し通すもので、そのほうが、子どもにとって幸せなことだと思っていましたので。
提供精子を使った不妊治療で生れた子どもを持っていて、子どもに提供精子を使ったことを話してきた家庭と、話してこなかった家庭について調査したところ、事実を話していない家庭よりも、話した家庭のほうが、家族間での問題がより少なかったとのこと。
父子の関係、そして、母子の関係も、子どもに事実を話した家庭のほうが、良好な関係が築かれているというのです。
複数の調査で毎回同じ結果になることから確かな結果だと言います。
実際に、生まれた人たちから話しを聞いてみると、親がどんなにその事実を隠していても、昔から「うちは何かおかしい、隠し事がある」と感じていた人が多いと。
事実を知らせるということは、知られたら大変なことになるかもしれないという恐れよりも、愛情があるから大丈夫だという思いの方が強いからであり、その愛情こそが、家庭内で、健やかなコミュニケーションの基盤になっていると言います。
何が大切なことなのかを教えてくれているようです。
家族をつくることは、手を尽くし、必死に頑張っても、悲しいかな、なかなか、結果が伴わないこともあります。けれども、健やかな家庭を築くことは、私たちが愛情を注げば、注ぐほど、ちゃんと応えてくれるのです。
たとえ、どんな方法で授かろうとも、たとえ、遺伝的なつながりがなくても、です。
一読をお勧めします。
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「家族をつくる 提供精子を使った人工授精で子どもを持った人たち」
▼出版社:人間と歴史社
▼アマゾン
▼著者:ケン・ダニエルズ
ニュージーランド在住。
提供精子を使った人工授精および生殖補助医療分野に34年間かかわってきた。
ニュージーランド政府の生殖補助医療に関する倫理委員会の副議長をつとめていたが、現在は、政府の生殖補助技術諮問委員会の副議長をつとめている。
ニュージーランドのクライストチャーチにある、カンタベリー大学のフルタイムの教職を退職した後も、同大学で非常勤で、ソーシャルワークの教鞭をとり、現在に至る。
▼訳者:仙波由加里
早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了、博士(人間科学)取得。
専門はバイオエシックス。
桜美林大学加齢発達研究所客員研究員。
スタンフォード大学visiting scholar。
2005年から2008年まで、
International Consumer Support for Infertility(iCSi)のボードメンバーを務める。