━ 妊カラの変遷
メールマガジン「妊娠しやすいカラダづくり」は、2003年9月6日に配信をスタートし、今回が400回目になりました。
そもそも、このメルマガは、そのタイトル通り、"妊娠しやすいカラダをつくるという発想が大切ですよ"ということを言いたくて始めました。
そして、現在に至るまで、私たちがこのメルマガを配信する目的は「お子さんを望まれるカップルの役に立つ」ことで、そのことに全く変わりはありません。
ただ、その方法、すなわち、"どのようにお役に立つ"のかは、徐々に変化してきたように思います。
バックナンバーからメルマガの冒頭のキャッチコピーの変遷をみてみると、そのことがよく分かります。
「"自然療法による不妊改善"が、テーマです」(1号~84号)
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「不妊に悩むご夫婦を応援します!」(101号~300号)
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「じぶんたちにあったこたえをだすために・・・」(301号~395号)
当初は、妊娠しやすいカラダをつくる"方法"や"手段"を紹介しようと、メルマガを始めました。
ところが、その後、メールのやりとり、気功教室やファティリティレッスン、さまざまなセミナーの主催、運営を通して、多くの不妊に悩む方々との交流を深め、いろいろな経験し、いろいろなことを学ぶことになりました。
その結果、方法や手段についての情報提供もさることながら、カップルが自分たちにとっての最適な方法や手段をみつけるためのお役に立ちたいと、次第に考えるようになりました。
そして、今回、400回目の配信という節目に、そんな経験を振り返って、読者の皆さんにメッセージをお送りできればと思います。
━ 情報は"与えられる"時代から"取捨選択する"時代へ
妊カラを配信した7年半前に比べて、不妊症や不妊治療に関する情報は爆発的に増えました。
そもそも、不妊に関する情報は、はじめは人から集めることは困難です。ですから、その昔はとにかく本屋さんにいって、適当な本を探すことしかありませんでした。探すと言っても、大きな本屋さんでも、せいぜい、数冊程度の中から選べば済みました。
ところが、インターネットや携帯電話が普及してからは、皆さん、ご承知の通り、もはや、情報の海です。
因みに、グーグルで「不妊」というキーワードで検索してみると、1200万件のサイトが表示されます。
そして、何気なくクリックしてみると、"体外受精で生れた子どもには先天障害が多い"なんていう、根拠のないデマに普通に出くわしたりしてしまいます。
掲示板やブログ、さらには、ミクシーなどのソーシャルメディアが広まってからは、普通は滅多に耳にすることなんかない、不妊当事者の生の体験に触れることが出来るようになりました。
ところが、その中にはとても有用な情報もあれば、一部にしか当てはまらないことが、まるで誰にでもあてはまるかのように書かれているのを目の当たりにします。
また、不妊治療の現場はと言うと、高度生殖補助医療技術の進歩と普及に伴い、治療法の選択肢がとても増えました。
不妊専門クリニックやドクターを紹介(広告)するサイトや本も急増しました。
それだけでなく、不妊治療を専門とするドクターでも、考え方や治療方針はさまざまあって、同じ患者でも勧められる治療法が異なることは珍しいことではなくなりました。
私たちの処理能力をはるかに超える量の情報が氾濫している状況では、なすがまま、受け身で鵜呑みにしていれば、情報の海に溺れてしまって、後々、後悔したり、何が何だか分からなくなってしまいかねません。
情報は与えられるものではなく、取捨選択することが必要な時代になったというわけです。
そのために大切なことを3つ挙げてみたいと思います。
予め最低限の知識は身につけておく
まずは、妊娠のメカニズムや不妊の原因、不妊治療のことについて、基本的な知識は身につけておくことです。
そのためには、教科書的な本を一冊読んでおくことをお勧めします。
この場合、出来るだけ"偏りのない"本を選ぶことがとても重要です。
そもそも、不妊治療においては、治療方針や治療法そのものに正解は存在しませんし、予め妊娠に至る方法は知る方法はないからです。
ですから、「これで妊娠できる!」とか、「この治療法がベスト!」などと言った情報は"ウソ"で、読む側のことを考えて発信されているに情報というよりも、書く側、発信する側が利益になるように意図された情報であると考え、用心するほうがよいと思います。
自分たちにはどんな情報が必要なのかをいつも考えておく
一口に不妊と言っても、その程度や原因、心身の状態は100組のカップルがいれば、100通りあります。
ですから、情報の絶対的な価値などないわけです。
受け取る側にふさわしいかどうか、必要とされているかどうかで価値が決まるのです。
つまり、情報を取捨選択するためには、まずは、自分たちのことを知っておかなければ、取捨し、選択しようがないということです。自分たちには、今、どんな情報が必要なのかを知っておかなければ、不要な情報をやり過ごすことが難しくなります。
情報はその"内容"よりも"誰が"言っているのかで判断するほうがよい
よく、自分には専門的な知識がないから、その情報が自分たちにとって正しいのかどうかなんて判断できないと嘆くのを耳にします。
当然だと思います。
冷静に考えてみると、いろいろな情報の真偽を自ら判断できるだけの知識がある人なんて滅多にいないはずです。それよりも、「誰が」、「どんな目的で」、その情報を発信しているのかで判断するほうが現実的だと思います。
おそらく、皆さん、無意識にそうされていると思いますし、その精度はとても高いと思います。
いかがでしょうか?
不妊に関する情報が氾濫している中では、悩みを克服するうえで、情報は受け身で"与えられる"のではなく、主体的に"取捨選択"することが絶対に必要です。
━ "つながる"ことは苦しみにも、救いにもなる
なかなか思うように授からないことの辛さは経験した者でないと絶対に分からないものでしょう。
自分だけが取り残されていくという感覚は理屈ではあらわせない、不妊治療を継続する、せざるを得ないことで感じるストレスは理屈では計り知れないということでしょう。
悲しいかな、"結果"が保障されていない、自分たちの頑張りや努力だけではどうにもならない世界なのです。
であれば、最善を尽くし、そして、その上は、もはや天命におまかせするしかありません。
天命におまかせすることが出来れば、それはもう爽やかな心象風景になれるのでしょうけど、最善を尽くし切るまでの、そのプロセスでは心が折れてしまわないよう、ストレスをどうにかしなければなりません。
メンタル面のことで言えば、「気功教室」や「ファティリティレッスン」の運営経験から学んだことは、人と人との"つながり"は大変な影響力を持っているということでした。
それは、プラス面においても、マイナス面においても、です。
たとえば、同じように不妊に悩む人たちと一緒にいるだけで、何もしゃべったりしなくても、"つながり"を感じることが出来ると言います。
それほどの人間関係があるわけではないのにもかかわらず、です。
とにかく、悩んでいるのは自分だけではないんだ!ということが理屈や数字ではなく、実感できることでずいぶん救われると。
また、"パートナーの支えがあるからこそ頑張れる"とか、"周囲の人たちの協力があるからこそ仕事と治療が両立できる"、さらには、"素晴らしいドクターに出会えたお陰で授かった"という声をたくさん聞きました。
反対に、"パートナーと温度差"や"周囲の無理解"、"無神経なドクターの対応"についての深い悩みも、同じくらいたくさん聞きました。
このように、人と人とのつながりは、私たちの心の状態に強く影響を及ぼす反面、諸刃の剣的なところがあるようです。つながりが敵になるのか、つながりを味方にするか、そのプラスマイナスの差は大変大きいものの、紙一重のようにも思います。
どうすれば味方につけることが出来るのでしょうか?
そのために大切ではないかと思うことを3つ挙げてみたいと思います。
一方的に期待したり、頼ったりしない
繰り返しますが、なかなか思うように授からないことの辛さは経験した者でないと絶対に分からないものでしょう。
さらに、不妊経験のある人でも、その経験の内容は決して同じではないわけですから、同じような経験をした人同士でも分からないものでしょう。
もしも、それが正しければ、そもそも、パートナーや周囲の人たちに、はなから理解してもらおうとしても難しいということになります。
誤解をおそれずに、厳しい言い方をすると、何かを期待したり、ましてや、頼ったりしても仕方ないということです。
人間関係について、もっと正確に言えば、そもそも、一方的に期待したり、頼ったりするのは、"つながっている"状態とは言えないのかもしれません。
同じ悩むを持つ人たちと出会うためにも、単にそんな機会が向こうからやってくるのを待っているのではなく、自ら、勇気を出して、そんな集まりに参加するという、行動が必要なことは言うまでもありません。
人と人との関係を見直し、つながりを組み直す
お互いのことや思いが、お互いに通いあっていてこそ、"つながる"というのであれば、味方を増やすためには、少々、努力しなければならないのかもしれません。
相手がパートナーであろうと、両親であろうと、周囲の人たちであろうと、ドクターであろうと、まずは、相手の状況を理解し、自分の状況を知ってもらうような工夫をすることで、今一度、関係を見直してみるとどうでしょう
か?
そう考えると、どんな関係であろうと、テイクアンドテイクの関係ではなく、ギブアンドテイクの関係にならなければ、決して、味方にはなってくれないでしょう。
たとえば、パートナーには女性の生理について、不妊治療内容について説明したり、職場の人たちに協力を得られるような工夫をし、ドクターとスムースなコミュニケーションのための努力も大切なことでしょう。
そういう観点で、さまざまな人とのつながりを見直し、新たな人間関係を構築することが出来るようになると、とてもハッピーな環境が手に入るに違いありません。
パートナーとのつながりこそ
そして、つながりの影響力が最も強いのは、当然、パートナーです。
不妊の悩みはふたりでどのように家庭を築くのかという悩みなわけですから、パートナーとの関係次第では、悩みは大きくもなり、小さくもなるところがあるはずです。
━ ハピネスを"取捨選択する"時代から"つむぐ"時代へ
便利で豊かな世の中になって、機械やコンピューター、さまざまなサービスが、昔は自分たちがやっていたこと、やらざるを得なかったことを代わりにやってくれるようになりました。
ところが、それに伴い身体を動かさなくなって、カロリー過多で微量栄養素不足に陥り、寿命は伸びたものの、生活習慣病が急増してしまいました。
便利さ=ハピネス(幸せ)ということを信じ、そんな社会の実現にまい進してきた結果、"便利さ"には思わぬ副作用が潜んでいたというわけです。だからと言って、便利さを享受しているわけですから、今更、健康のために、昔のような不便な社会に後戻りすることは困難です。
ハピネスの定義を"便利さ"から"楽しさ"や"気持ちよさ"に組み替える必要がありそうです。
つまり、"必要だから"身体を動かすことから、"楽しむために"、"気持ちよさを味わうために"身体を動かすことにモチベーションを変換することで、便利さを享受しながらも、健康な社会が実現可能なのではないでしょうか。
一方、生理学的に不妊症が増えているかどうかは分かりませんが、体外受精の治療周期数は、年々、大変な勢いで増えています。
晩婚化が進み、子作りを始めるのが遅くなったことが、その背景にあることは多くの専門家が指摘するところです。
女性がキャリアを積むこと=ハピネスということを信じ、そんな社会の実現にまい進してきた結果、そこには思わぬ副作用が潜んでいたと言えなくもありません。
だからと言って、今更、女性は妊娠、出産のため、昔のように家を守るという社会に後戻りすることなんて出来ませんし、望まれてもいないでしょう。
このあたりで、ハピネスを定義し直してみる必要があるように思います。
ただし、どのように定義し直すのかは、昔のように画一化された普遍的なものではなく、それぞれの夫婦、カップル次第です。
少なくとも、「仕事か、家庭か」とか、「子どもか、キャリアか」なんていう選択(させられた)の時代はとっくに過ぎ去ったことだけは間違いなく言えます。
つまり、ハピネスは与えられた選択肢を取捨選択する時代から、それぞれの夫婦が自分たちの価値観や世界観で、自分たちだけのハピネスをつむぎだす時代になったのだと思うのです。
それぞれの夫婦が自分たちだけのハピネスをつむぎだすことこそが大切です。
夫婦や家庭のハピネスの定義が画一的、かつ、普遍的であった時代には、そこには必ず、子どもがいたものです。そして、子どもが小さいときには、車はワゴンがあって、その後は、ゆったりした乗用車にグレードが上がり、最後は高級車になります。
繰り返しますが、そんなハピネスはとっくに崩れ去っています。
車がステータスシンボルであったのはもはや昔のことで、車としての機能は都会では必要性の低いものですし、所有しなくて、シェアしてもいいわけです。
子どもはいてもいいし、いなくてもいいし、愛情を注ぐ対象は養子を迎えてもいいし、他人の子どもでもいいし、ペットでもいいわけです。
くれぐれも誤解しないでいただきたいのは、子どもはいらないとか、子どもを望むことは、古い考えだと言っているわけでは決してありません。
そうではなくて、ハピネスの定義を他人のものや時代にそぐわないものに合わせる必要はないと言いたいだけです。
ふたりで、ふたりの価値観や世界観にあった定義をする、すなわち、ふたりのハピネスをつむぐ時代になっている、そう思えてなりません。