サイトをスタートして以来、初めて、男性から妊娠報告をいただきました。
男性の声も聞きたいと、女性からも、男性からも、よく言われるのですが、実際に男性の方から生の声を聞かせていただくことは滅多にありません。
改めて、パートナーが不妊治療に臨む男性のことについて、いろいろと考えさせられました。
男性のこととなると、"女性と男性の温度差"のこととか、"協力的かどうか"ということがよく話題になります。ただ、女性と男性では、お子さんを授かるうえで、生理的な役割が決定的に違うわけで、温度差はあって当たり前でしょう。
一方、携帯公式サイト「おしえて!不妊ナビ」で、419名の女性を対象にしたアンケートでは、70%近くの方がご主人は協力的であると回答されています。
実際のところ、これまでの私たちの肌感覚でも、ほとんどの男性は協力的ではないかと思っています。
---
改めて考えてみれば、お子さんを授かるのに、医療の力を借りるなんてことは、せいぜい、この何十年、いや、高度生殖医療が当たり前な治療法になったのは、この、ほんの数年のことでしょう。
要するに、長い長い人類の歴史で、お子さんを授かることにおいて、ほとんど他人事できた男性にとって、"どうしていいのかよく分からない"ということではないでしょうか?
単に、知識も、経験も、そして、これまでの諸先輩方による経験の蓄積もない、そういうことに思えてなりません。
であれば、考えるべき、伝えていくべき、そして、共有していくべきは、温度差があるとかないとか、協力的かどうかということではなく、不妊治療を受けるにあたって、男性がどう絡めばいいのかということではないでしょうか。
NRさんから妊娠報告をいただいたことをきっかけに、そんなふうに思いました。
------
神戸にある不妊治療専門クリニック、英ウィメンズクリニック院長の塩谷先生は、
「不妊症の治療は、オリンピックの種目に例えると、瞬発力を発揮する100メートル走ではなく、持久力を必要とするマラソンです。」とおっしゃいます。
そして、「いったん治療方針を決めたら、ゴールに向かって淡々と、そして、着実に歩みをすすめることが大切です。」だと。
マラソンに例えられると、具体的なイメージを持つことが出来ます。
女子マラソンで、女性がランナーで、そのご主人がコーチというパターンを想像してみましょう。
もちろん、不妊治療は競争ではありません。
勝ち負けは全く関係ありません。
タイムリミットはありますが、途中で休憩したり、自らコースやゴールを見直すことも可能です。
ただ、実際に肉体的に辛い思いをするのは女性ですが、それぞれの役割を果たして、ゴールを目指すところは共通するところです。
そこで、女性が不妊治療に臨む際に、パートナーである男性は、何をどうすればいいのかを考えるうえで、女子マラソンからヒントが得られるかもしれません。
コースを知る
知識や経験がベースにあるかどうかということです。
練習においても、レース本番においても、男性コーチは、女性ランナーを励まし続けます。
そして、それは女性ランナーにとって、最も励みになるようです。
ただし、そうなるためには、コースの状態や状況を知らないことには、適切で、心のこもった励ましになりませんし、そもそも、励ましようがありません。
パートナーである男性には、不妊治療の基本的な知識が必須です。不妊治療について解説された教科書を読むことは誰でも出来ます。
また、可能であれば、パートナーの付き添いとしてではなく、どんな治療が行われるのかを知るために、一緒にクリニックに行くのもいいかもしれません。
ペースを配分する
戦い方を一緒に考えるということです。
マラソンでは、いくら実力があっても、ペースの配分やコース選定を間違えると、勝つことが難しくなります。
パートナーである男性には、ペース配分やコース選定において、客観的なアドバイスが求められます。女性との生理的役割が違うからこそ、です。
漫然と同じ治療や必要性の低い治療を繰り返すと、貴重な時間や費用、体力を浪費し、精神的な負荷も大きくなります。ブレーキをかけたり、コースを修正するのは、パートナーの男性にしか出来ないこともあります。
瞬発力よりも持久力
夫婦の関係がものを言うと同時に、夫婦力が鍛えられるということです。
スタートダッシュで先頭を突っ走るのはそれほど難しくありません。
ただし、たいていは、満を持してスパートをかけた実力者に、どこかで抜き去られるのがお約束のパターンです。
持久力を養うには、特別な才能や努力が必要なわけではありません。当たり前なことを、当たり前に、淡々と、積み重ねるしかありません。
つまりは、続けられるかどうかです。
ただ、大切なのは、続けることそのものではなく、続けられる環境をつくることでしょう。
続けることは、あくまで、手段であって、目的ではありません。
ゴールを目指すことの意味や意義への"理解"、ゴールを目指す方法が自分たちに適切であるとの"納得感"、常に、修正を繰り返す"柔軟性"、お互いが絶対に裏切らないという"信頼感と安心感"、そして、ふたりでレースを"楽しむこと"が、続けられる環境をつくることになるのでしょう。
不妊治療で培った夫婦の"持久力"は、その後に遭遇するであろう、さまざまな問題を、軽く、乗り越える力になることでしょう。