妊娠中に脂っこい食事を摂り過ぎると、生まれた娘や孫娘は乳がんにかかりやすくなるとのショッキングなニュースが報道されています。アメリカのジョージタウン大学の研究者を中心とするチームがラットを使った実験で確かめた結果とのこと(*1)。
妊娠中のマウスを2つのグループにわけて、一方には健康的な食事を、もう一方には高脂肪の食事をさせたところ、高脂肪食の母親から生まれたメスのラットは健康的な食事をしていても乳がんにかかりやすかった、そして、同様の影響は、その次の世代にまで引き継がれたというのです。
妊娠中の高脂肪食が、娘のみならず、孫娘の乳がん発症リスクまで高くするとは、驚くばかりです。
母親の子宮内の環境が子どもや孫の遺伝子の発現にまで影響を及ぼすというわけで、例の「エピジェネティック」な変化によるものと考えられてるようです。
この実験では発ガン性物質を食べさせて、乳がんにかかりやすいかどうかを確かめていることから、この結果をそのままヒトに当てはめることには無理があると断ってはいます。
ヒトでも同じことが言えるのか、確かめようもないのでしょうが、「新しい命が育まれる環境の重大さ」ということについては、ヒトでも全く同じはずです。
新しい命が育まれる環境の重大さ。
それは、生まれた後でも、妊娠中でも、そして、たとえ、妊娠前であったとしても同じことです。
妊娠、あるいは、受精の前でも、母親になる女性の体内の栄養環境は、新しい命が発生し、成育することに、決定的な役割を担っています。
その証拠に、アメリカのハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、アメリカの女性看護師を対象とした大規模な疫学調査で、妊娠前の生活習慣と不妊症のリスクの関連を明らかにしています。
また、オランダのロッテルダムにあるエラスムス大学の研究チームは、妊娠前の食生活が体外受精の治療成績に明らかな影響を及ぼすことを確かめています。
さらには、ニュージーランドのオークランド大学の研究チームは、妊娠前の食生活と子宮内胎児発育遅延(SGA)リスクに密接に関連していることを報告しています。
妊娠(受精)前の子宮の栄養環境は、卵の成熟、受精卵や胚の成育、そして、胎盤の形成、さらには、胎児の器官形成にまで決定的な影響を及ぼしています。
ほ乳類の母親の体内(胎内)は、植物にとっての土壌や天候に相当するのだと思います。
種をまいた後に私たちにできることは、水や光、養分などが不足しないようにしたり、雑草をとったりすることだけです。
思うように授からない期間が長くなると、無意識に「妊娠スイッチ」を探して、スイッチをいれようともがくような気持ちになるかもしれません。
でも、新しい命は自ら成育するもので、妊娠はその通過点にしか過ぎません。
私たちにできることは、成育に適した環境を整えること、言い替えると、赤ちゃんがすこやかに成育できるような体内の環境をつくることです。
もちろん、そうすれば、確実に妊娠、出産出来るようになるというわけではありませんが、どの程度なのかは定かではないものの、その確率は高くなるはずです。
そして、何よりも自分や自分の家族の健康という財産が手に入るのです。
進む方向は、間違いなく、「妊娠スイッチ」の探索ではなく、「自分たちの体内環境」の向上です。
〈文献〉
*1)High-fat or ethinyl-oesrajiol intake during pregnancy incresce mammary cancer risk in several generations of offspring
Sonia de Assis et al.
Nature communications Published 11 September 2012