編集長コラム

細川 忠宏

ふたりで話し合い、ふたりだけの物語をつむぐ

2013年06月11日

「ドクターに訊く」の13回目は、春木レディースクリニック院長の春木篤先生に、不妊治療には、なぜ、"対話と物語"が大切なのか?というテーマでお話しをお伺いしています。

春木先生にお話しをお聞きしたいと思ったのは「EBMにはじまり、NBMにおわる医療」を新しいクリニックの理念に掲げていらっしゃるということをお聞きしていたからです。

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新しい命の誕生は、"こうすれば、必ず、こうなる"という世界で進むものではありません。

そんな中で、過去の信頼できる研究から導かれた、"こうすれば、こうなりそうだ"というエビデンス(科学的根拠)に基づいて治療を進めていくのがEBMです。

ただし、あらゆる状況で頼りになるエビデンスが揃っているというわけではなく、現実は、"こうすれば、必ず、こうなるとは限らない"世界で、翻弄されがちです。

だったら、いっそのこと、自分たちのやりたいようにやればいいじゃないかという考えもあるのかもしれません。

でも、いかんせん、治療の目的は妊娠することです。やりたいようにやっても、あまり妊娠に近づかないやり方であれば意味がありません。

言ってみれば、こうすれば、ほぼ、こうなるという地点から目的地までの間に迷路のような領域があるわけです。

生命の誕生の神秘と言えばそれまでなのですが、だからと言って、盲目的にさまようわけにもいきません。

やはり、自分たちの希望や思いをわかってくれている、そんな信頼できるドクターにサポートしてもらいたいと考えている人は多いと、かねがね、思っていました。

そして、その具体的な方法が春木先生の「エビデンスにはじまり、ナラティブにおわる医療」ということになるのではないかと直感したのです。

そんな経緯でインタビューをお願いし、そして、腑に落ちるお話しをお伺いすることが出来ました。

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さて、私は、この「対話と物語」は、不妊治療だけでなく、赤ちゃん待ち期間の夫婦の過ごし方を考える場合にも、とっても大切だと思うようになりました。

どういうことかと言いますと、こうしなければならないとか、みんなこうしているからとか、こうするべきだとか、こうしなさいと言われたからとか、そのようなことを優先するのではなく、ふたりで話し合いながら、ふたりだけのやり方をみつけていくということです。

そして、それが、ふたりだけの物語になっていくというものです。

お子さんを望む女性も、男性も、それにふさわしいカラダをつくることがとても大切です。

そして、そのためには、なにをどうすればいいのかについても、これまで多くの研究報告がなされています。

食生活や生活習慣などを見直す必要があるカップルも少なくないと思います。

ただし、真面目に"妊娠のための"生活を徹底しようとすると、かえって、ストレスをため込むことになって、皮肉にも妊娠から遠ざかってしまうことにもなりかねません。

人間は機械じゃありませんからね。

その一方で、同じことに取り組んでも、そのやり方次第で、得られる効果に大きな違いが出ることも知られています。

たとえば、ある病院で糖尿病の患者さんを対象に運動と血糖値の低下度との関係を調べた研究で、室内のウォーキングマシンや自転車こぎで運動するよりも、森林浴(自然の中をウォーキング)したほうが圧倒的に血糖値の低下度が大きかったと言います。

つまり、「健康のため、妊娠するため」にやるより、「気持ちよく、楽しく」やるほうが効果的だというわけです。

どうやら、妊娠しやすいカラダづくりというのは、ふたりでふたりの生活を大切にし、楽しみ、充実させる、その結果として、健康な赤ちゃんが育まれやすくなるということのようです。

なので、「妊娠するためにはどうすればいいのか」というよりも、「ふたりで、食べること、カラダを動かすこと、仲良くすることを、いかに目一杯楽しむか」を、真剣に追求するのがいいように思うのです。

ふたりが主体的に、自分たちの生活をコントロールしていくという感覚がもてるほど、ストレスに強くなるという研究報告もあります。

ふたりだけの物語をどのように紡いでいくか、100%、おふたり次第です。

ふたりが人生の主役ですからね。