編集長コラム

細川 忠宏

クリニックを選ぶとき、、、。

2014年06月30日

不妊治療をはじめる時、転院を考える時、皆さんはなにを目安にクリニックを選んでいるのでしょうか。

もちろん、ロケーションや診療時間、治療費、治療内容、治療方針、治療成績など、いろいろ、比較検討する材料があると思います。

たとえば、どこにあるのか、何曜日のどの時間帯に診てもらえるのか、費用はどれくらいかかりそうなのか、どんな治療を受けることが出来るのかについては、比べるのは、それほど難しくはないと思います。また、たとえ、遠方で費用がかかっても、自分に必要な、或いは、自分が求めている治療はこの先生にしか出来ないというのであれば、クリニックを選ぶのは、それほど難しくはないでしょう。

ところが、治療方針とか、治療成績とか、割と気になることは、単純比較が難しいように思います。

そもそも、定義がないというか、主観的というか、それらを理解するのに知識や経験が必要だったりするからです。治療方針にしろ、治療成績にしろ、うがった見方をすれば、よく思われるように、よく見せるように「表現する」ことが出来るものです。

実際のところ、「身体にやさしい」治療って、具体的にはどんな治療で、どんな理由で身体にやさしいのか、また、「高い」妊娠率と言っても、患者さんの年齢や治療期間はどれくらいなのか、「やさしい」とか、「高い」とか言われても、なかなか、一筋縄ではいきませんからね。クリニックによっては、高齢、かつ、難しい患者さんが、先生の腕を頼りに最後の砦として集まってくるようなところもあるわけです。治療成績という「数字」は思うほどあてにならないと言っても過言ではありません。

ここまで書いてきて、少し不安になったので、お断りしておきたいのですが、ここで「クリニック選び」について、参考になるアドバイスをしようとか、そんなことを考えているわけではありません。

ただ、不妊治療、特に、40歳代で治療を頑張っていらっしゃる女性に知っておいて欲しいなあと思わされたことがあるのです。

そのきっかけは、「不妊治療終結に関する情報提供の在り方 40歳以上の不妊患者を対象に」という論文の中のある調査データを目にしたことです。論文は東京慈恵会医科大学産婦人科の杉本公平先生が書かれたものです。それは、40歳以上で不妊治療を受けている女性にとって、治療を続けるか、卒業するのかを考える際に、年齢別の治療成績等の医学的なデータは、ほとんど、影響を及ぼさないというのです。

要するに、妊娠の可能性が高いから治療を続けるわけでも、可能性が低いからやめるわけでもないということです。もっと言えば、月経がなく、排卵誘発剤を使って何回も採卵を試みても全く卵が採れない、すなわち、ほぼ、閉経していても、治療をやめない女性もいると。

40代半ばで頑張っていらっしゃるカップルは、そもそも、確率的にはとても厳しいことは百も承知でしょうし、これまで、「確率の問題ではないんですよ」ということを、直接、或は、間接的に、多くの女性から聞いてきたことではあります。

それでも、そのデータは今の私にとって、ちょっとした衝撃でした。

もちろん、そんな経験のない私にはわかりようもないのですが、治療を続けるか、やめるかは、医学的な事実がどうであれ、他人がどう思おうと、どう言われようと、二人の「納得感」が全てなのだということを、改めて、突き付けられたようでした。

誤解しないでいただきたいのは、確率的に厳しくても、納得できるまで続けるべきだということを、思っているわけでも、言いたいわけでもありません。

そうではなくて、やはり、妊娠が保障されているわけではない不妊治療においては、全てのカップルは、クリニックを選ぶ際にも、治療方針を決める際にも「二人の納得感」こそが、最も大切なのだということを言いたかったのです。

そんな観点で、情報を集めたり、比較検討してみると、決して、耳に心地よいキャッチフレーズや宣伝文句、見栄えのよい数字などの表面的な情報だけでは、到底、「納得」できないと感じ、本当に必要な、欲しい情報、そして、本当に比べるべきことが見えてくるかもしれません。