編集長コラム

細川 忠宏

なぜ、昔はもっと高齢でも妊娠、出産していたのか

2014年10月06日

梅ヶ丘産婦人科院長の辰巳賢一先生にはコンテンツの作成に際して、さまざまなアドバイスをいただいますが、この夏もドクター向けセミナーで「年齢因子」ついてのご講演を拝聴してまいりました。高齢、それも40代で妊娠を目指す際にあたってなにが一番大切なのかを教えていただき、それこそ、目から鱗が何枚も落ちるようでした。

その中で、昔といっても、戦前の女性は40歳どころか、45歳以上でも、多くの女性が妊娠、出産していたことを知りました。

━ 100人に1人が45歳以上から生まれていた時代があった

この2、3年、マスコミで「卵子の老化」について、度々、報道されるようになり、女性の年齢が高くなるほど妊娠しづらくなることが広く知られるようになってきました。ただ、実際のところ、何歳くらいまで妊娠、出産が可能なのでしょうか?

ギネスブックの年齢的な妊娠限界としてはアメリカのオレゴン州で57歳と120日が出産最高齢として記載があります。また、日本では48歳の女性の顕微授精による妊娠、出産例が報告されています。

これまでの日本はどうだったのでしょうか。

40歳以上の出生数とその割合をみてみると驚くべき事実が判明します。

1925年といいますから大正末期には、40歳から45歳の女性が約12万人、45歳以上で約2万人の赤ちゃんを産んでいるのですよ!その年の総出生児数は約200万人なので、なんと、100人に1人の赤ちゃんの母親が45歳以上なのですね。

当然、高齢の妊娠、出産は、それ以降、激減し、1975年(昭和50年)には40歳から45歳の出生数は8727人、45歳以上で319人になってしまいます。50年で45歳以上の女性の出生数は50分の1に減っています。因みにそこから、現在に至るまで増え続け、2010年は40〜45歳で約34000人、45歳以上で約800人になっています。

このことをどのように解釈すればいいのでしょうか。

その時代と現代を比べ、その頃にあって、今にないものについて考えることで、高齢で妊娠を目指す場合に妊娠の確率を高めるためのヒントが見つかるかもしれません。

━ 人の妊娠力は昔に比べて低下しているのか?

まず、そもそも、本来的に備わっている生殖能力が、時代とともに低下してしまったのでしょうか?もっともらしく聞こえなくはありませんが、人間という生き物の生殖能力が、たかだか、90年で低下してしまうのは考えにくいことです。

であれば、昔と現代の環境や生活習慣の違いに着目すべきでしょう。

まずは、その時代に40代後半に出産していた人は、おそらく、多産で40代後半になって初めての子どもを授かったというわけではなく、20代前半から妊娠、出産を繰り返し、最後が40代というパターンではなかったかと思われます。妊娠、出産を繰り返すと、その間、排卵が抑制され、卵巣内の卵子の減少がゆっくりだった、そして、それだけ、子宮を使うことで、子宮周囲の血行がよかったのではないかということが考えられます。

このあたりに、現代との違いを見出すことが出来るかもしれません。

ただし、卵子の減少がゆっくりだったとしても、子宮の血行がよかったとしても、それらは、妊娠率には直接影響しません。なぜなら、妊娠率に影響を及ぼすのは「卵子の質」であるからです。そして、卵子の質は年齢によりますので、昔でも、高齢になればそれなりに卵子の老化は進んでいたはずです。

━ 高齢妊娠が多かったのは性交回数が多かったから

年齢が高くなると卵子が老化することは、自然の摂理とも言うべき、今も、昔も、変わらない現象です。つまり、40歳代になれば正常な卵子が排卵する回数が、20代、30代に比べれば、極端に少なくなるのは、昔も、今も変わらないというわけです。

であれば、最先端の生殖医療をもってしても、老化した卵子をよくすることは不可能ですから、高齢で妊娠を希望する場合、毎周期、妊娠のチャンスを持っているかどうか、このことが妊娠の確率を左右する最大の因子になってきます。

その昔は、この日本で、45歳以上でも多くの妊娠、出産例があったのは、一重に避妊をしない性交回数が多かったことによるものではないかというこです。

要するに、「性交回数を増やすこと」、これが高齢で妊娠の確率を高める最も有効な方法であるということになります。それにしても、その昔はテレビもネットもありませんし、お店も閉まりますから、他にやることがなかったのでしょう。期間限定で、夜の外出やネット、テレビを締め出してしまいますか。

それはさておき、性交回数さえ増やせばいい!というアドバイスがプレッシャーになる、負担になるのであれば、毎周期、人工授精を繰り返すのがいいと思います。