編集長コラム

細川 忠宏

根治療法と対症療法

2014年12月08日

妊娠に近づくために「自分たちでできること」について、ほぼ毎日のようにご相談があります。

そもそも、「妊娠しやすいカラダづくり」は、そういうことをイメージしているのですが、最近、もしかしたら、不妊治療を受けていると、無意識に根治療法を求めるようになるのかもしれないなと、思うようになりました。

そうです、対症療法に対する根治療法のことです。

体外受精って、ある意味、究極の対症療法です。そのため、根治療法に取り組んでバランスを取ろうとするのではないかという仮説です。

卵管が閉塞しているのであれば卵管を開通させる、精子の数が少ないのであれば精子を増やす、子宮内膜症があるのであれば子宮内膜以外のところに子宮内膜ができないようにする、卵子が老化しているのであれば卵子を若返らせるのが「根治治療」です。

ところが、根本的な治療が不可能、もしくは、困難か、とても時間がかかるか、確実性が低い場合、根本原因はひとまず置いておいて、表面的な症状を抑える、すなわち、妊娠するために対症療法が施されるわけです。

もちろん、目的はお子さんを授かることですから、そのためにより確実で、現実的な方法を採用するべきなのでしょうが、理屈ではなく、無意識に根治的なことを求めているのではないか、そんなふうなことを感じるということです。

実際のところ、「自分たちにできること」について、どれだけの確実性があるのかはわかりませんし、ましてやエビデンスは?と言われれば答えに窮してしまいます。

ところが、私たちが生きていることの「根本」や「根源」的なところでは、生命力の基盤である生活リズムや食生活が支えていることは否定のしようがありません。

ですから、新しい「命」の誕生に際しても、「自分たちにもできることがあるはず」、「自分たちも取り組みたい」という意識がどこかで働くのではないかと思うわけです。

「妊娠しやすいカラダづくり」とはより根治療法的な取り組みであるべきだと、私たちが考えるのはこのためです。

たとえば、子宮内膜症の女性にとって、冷えにくい体質をつくることが「自分で取り組めること」になり得るかもしれません。

先週の木曜と金曜の2日間、東京の京王プラザホテルで日本生殖医学会が開催されました。

そこで、秋田赤十字病院婦人科の太田博孝先生は、「生活習慣からみた冷え症合併卵巣チョコレート嚢胞症例の特徴」ということで、卵巣チョコレート嚢胞合併子宮内膜症の女性は強い冷え傾向にあり、生活習慣が冷えを増強し、冷えは子宮内膜症の発症の重要な因子と考えられるとの研究結果を発表されています。

もちろん、冷えにくい生活習慣を心がけることで、子宮内膜症が治ったり、予防できたりするわけではありませんが、子宮内膜症の女性にとって冷え対策は「自分で取り組めること」になるはずです。

そこで、冷えにくい体質をつくるための根治療法的な生活習慣の改善を考えてみたいと思います。

つまりは、外から受け身的にあたためることもさることながら、自ら能動的に、冷えない身体、温かい身体をつくることが、より根治的ではないかというわけです。

そもそも、身体の温かさのもとは、糖や脂肪を酸素で燃やし、エネルギー(ATP)を産生する際に放出される「熱」です。そして、細胞が、そのATPを利用する際にも熱が発生します。

要するに、熱は、エネルギーを「産生」し、それを「利用」する過程で放出されるということです。

そのため、自らのカラダが、その熱の産生を高めることが、すなわち、冷えにくい体質をつくることになるというわけです。

そのためには3つの生活習慣がポイントになります。

まずは、たんぱく質の豊富な朝食を食べ、朝、起床時の低い体温を、スムースに上昇させることです。意外かもしれませんが、糖質や脂肪よりたんぱく質の多い食事をとったときのほうが、熱の産生が高くなります。

そして、筋力をつけること。身体の中で、最も大量に熱を生み出すのは筋肉だからです。筋量を増やすことで、基礎代謝が高まり、放出する熱量も大きくなります。

最後に、よく動き、そして、ひたすら、歩くこと。身体の中で一番冷えるところは足です。足は心臓から一番遠いので、心臓から送り出された温かい血液の巡りが悪くなりがちだからです。

歩くことで、下半身をはじめとする筋肉から熱が産生され、なおかつ、足の筋肉をがポンプになって、血流をよくしてくれます。その際のポイントは太ももとふくらはぎです。太ももをより動かすには、階段の上り下りのような動きが効果的です。また、ふくらはぎは、足先を上下に動かすのが効きます。

よく動く、ひたすら歩くこと、そして、補助的にストレッチを朝晩欠かさずやると完璧です。

いかがでしょうか?

根治療法は、決して、手軽で、手っ取り早い方法ではないのかもしれません。

ただし、その効果は一時的なものではなく、長く続き、波及効果も大きいものだと思います。