2013年12月に出版させていただいた翻訳書「妊娠しやすい食生活」ですが、おかげさまで3刷が決まり、さらに、たくさんの方にご覧いただけるようになり、本当に嬉しい限りです。
そんなタイミングで、先週、あの「卵子老化の真実」を書かれた出産ジャーナリストの河合蘭さんにこの本について取材いただく機会がありました。
その際、河合さんが「この食べ物が(妊娠に)いい、あの食べ物が悪いというたぐいのことは見事に書かれていませんね」とおしゃってくださいました。
まさに、我が意を得たり!だったのですが、そんなこんなで、この本のことについて、そして、食と妊娠力について、改めて考える機会になりました。
原著者のチャバロ先生に初めてお会いした時、「なにを食べるかということよりも、どのように食べるか、が大切なのです」と盛んに強調されていたことが、強く、印象に残っています。
それでは、どんな食べ方がいいのかと言えば、もちろん、本を買って読んでいただきたいのですが(笑)、強引に言ってしまえば「食べ物を出来るだけ自然な(加工しない、加工度がひくい)ままで、(5大栄養素を)偏りなく食べる」ということです。
たとえば、最近、糖質が「悪い栄養素」であるかのような風潮がありますが、糖質は5大栄養素の1つであり、主要なエネルギー源で、糖質を摂ると妊娠しにくくなるという証拠はありません。
ところが、白米や白いパン、白い砂糖などに加工精製されると素早く消化吸収されるので食後の血糖値の上昇が急になり、習慣化すると、やがて、インスリンの効き目が悪くなり、ホルモンバランスが崩れ、卵巣の働きが悪くなるリスクが高まることがわかっています。
つまり、「糖」は味方にも、敵にもなり得るというわけで、問題は「食べ方」(食べる形態)や「食べる量」にあるのです。
このことは、たんぱく質や脂質でも、全く同様のことが言えます。
食材や食品を加工すればするほど、本来的(自然)に含まれているさまざまな栄養素の量やバランスが壊れてしまいます。
食材は「昔ながらの」八百屋や肉屋、魚屋、米屋、乾物屋、豆腐屋で調達し、自分の手で「昔ながらの」方法で調理するのが理想です
要するに、食品の製造や加工精製技術の向上や食品添加物の使用によって、便利で、安全で、低いコストで、十分過ぎるくらいの量の食品をもたらしてくれた反面、妊娠する力を弱めてしまうというリスクをはらませることにもなったわけです。
その時々のニーズに応えよう、そして、よかれと思ってやってきたことが仇になってしまった、という感じです。
食品添加物やある種の食品加工などが、まるで、目の敵にされているような空気がありますが、そもそも、私たちはそれらによって可能になるであろう「安全性」や「便利さ」、「低コスト」を求めていたはずであるということ、そして、それらが実現した結果、莫大な恩恵を受けていること、それらを忘れてはならないと思います。
ですから、リスク面だけを批判し、避難することはフェアではないと思いますし、「昔ながら」に戻るという選択肢は現実的ではありません。
「昔ながら」のメリットもさることながら、現代人には耐え難いデメリットもあったはずです。
このような状況で、私たちはどのように考え、行動していけばいいのでしょうか。
大切なことは、食品加工や精製、添加物などは、あくまで、日常生活の中の「リスク」の1つだということです。
であれば「ゼロにする」のではなく、「マネジメントする」のが現実的です。
食品を食べてはいけないものと食べるべきものに二分し、どこかに正解を求めていると、いつか破綻をきたしてしまいます。
そもそも、1つの野菜や果物、穀物に「身体によいとされる成分」と「身体に悪いとされる成分」が同時に含まれていることなど珍しいことではありません。
少し前までもてはやされていた食材が、実はそうではなかったなんてこともしょっちゅうあることです。
ましてや、これさえ食べていれば妊娠できる、健康を維持できるなんていう食品や成分など存在しません。
ですから、食べ方に万人に共通な正解などあるわけはなく、それぞれの家族に、時と場合によってふさわしい食べ方があるだけです。
身体に悪い!、食べてはいけない!とか、妊娠によい!、不妊によい!なんていう無意味でセンセーショナルなフレーズに煽られ、惑わされることなく、栄養素の働きや生殖機能との関係について最新の情報を得て、その時々の自分たちに最適な「食べ方」を、常に、構築し直すことが大切ではないかと思います。
そもそも、「食べる」ことは、動物や植物の命をいただきながら自分の「生を活かして」いるわけで、生活そのものです。
こだわるべきは、自分たちが美味しくいただくことを楽しむ、そして、そのことに感謝するということではないでしょうか。