編集長コラム

細川 忠宏

妊娠のためだけでなく将来の生活習慣病予防にもなる

2015年10月06日

翻訳書「妊娠しやすい食生活」の原著は、栄養と生殖機能の関連研究を専門とするハーバード大学のチャバロ先生の著書「The Fertility Diet」という本です。

なにをどう食べると、卵巣の働きがよくなったり、悪くなったりするのかについて書かれているのですが、そのもとになっている研究は「看護師健康調査」という女性看護師を対象に長期間に渡って実施されている大規模な疫学研究です。1976年にはじまり、25万人以上の女性看護師が参加しています。

日本でもアメリカにならって同じような疫学研究を実施しようということで2001年にスタートしたのが「日本ナースヘルス研究(JNHS)」で、日本の女性看護師を対象に生活習慣と健康に関する調査が現在も進行中です。

この日本ナースヘルス研究の最初の2年間の約45000人の女性のデータを解析した結果、ある意味、ショッキングな内容の報告がなされています。

それは、卵巣性不妊の女性は、不妊でない女性に比べて45歳以降に高血圧になるリスクが約1.7〜1.9倍高く、45歳未満で糖尿病にかかるリスクが約3倍高いことがわかったというのです。

卵巣性不妊は、主に、排卵障害でそのうちの約8割がPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)ではないかとしています。

このことは、現在、排卵しづらくさせている原因というか体質が、年齢とともに生活習慣病を招く可能性が高いということを物語っています。

日本人女性の生活習慣と健康に関してわが国における最も信頼のおける疫学調査による報告です。

そもそも、PCOSの原因はよくわかっていませんが遺伝的なものが関わっていると言われています。

そのため、不妊治療では対症療法的に排卵誘発剤を使って排卵させて妊娠を目指し、体外受精も積極的に行います。

ただし、肥満や内臓脂肪過剰な女性に多かったり、やせていてもインスリンが効きにくく、糖や脂質の代謝に異常をきたすケースが多かったりすることから、食生活の改善や運動などの生活習慣を見直すことで、排卵しやすくなることが知られています。

月経不順を自覚していても不妊治療を受けるようになってはじめてPCOSだとわかるようになるケースも少なくないと聞きます。

もしも、排卵誘発剤を使った不妊治療で妊娠、出産できたとしても、自分は糖尿病や高血圧になりやすい体質であると認識するようになれば、その後の生活も違ってくるはずです。

食生活や運動などで、少しずつでも体質の改善に取り組むことで、将来、生活習慣病を予防し、回避するきっかけになれば、「災い転じて福となす」ことになります。

妊娠しづらいことを経験することは、決して、悲しむべきことばかりではないのかもしれません。

*文献:Ovarian infertility is associated with cardiovascular disease risk factors in later life: A Japanese cross-sectional study.(Maturitas ARTICLE IN PRESS)