編集長コラム

細川 忠宏

男性不妊における男性への診療で妊娠率はよくなるのか?

2016年11月07日

11月3日、4日の2日間、日本生殖医学会が横浜で開催されました。

そこで、横浜市立大学附属市民総合医療センターの生殖医療センターの先生方によるポスター発表「泌尿器科的治療介入がART治療成績に与える役割」がありました。

「泌尿器科的治療」というのは「男性不妊を専門とする泌尿器科医による男性への治療」という意味で、体外受精や顕微授精を受けるカップルへの男性パートナーへの治療が妊娠率にどのような影響を及ぼすのか調べたという研究です。

要するに、ふたりで不妊治療に取り組むことで治療成績がよくなるのか?ということを確かめたというものです。

不妊症カップルの約半数に男性側に原因があるとされています。

そして、男性側に原因があった場合、すなわち、精液検査の結果、精子濃度や運動率が基準を下回り、そのことによって妊娠できない、または、妊娠しにくくなっていると考えられる場合、選択肢は2つあります。

男性への診療を行うか、スルーするか、です。

実際のところ、精液中に精子が全くいない無精子症は別として、たいていは、男性側に原因があったとしても、男性への診療はしないまま、女性の対して顕微授精が行われることが多いというのが現実です。

そこで、今回の研究では、男性側に診療を行った場合とスルーした場合では、女性への体外受精や顕微授精の治療成績が変わってくるのか、調べたというわけです。

横浜市立大学附属市民総合医療センターの生殖医療センターで体外受精や顕微授精を受けた患者さん(男性パートナーが無精子症であったケースを除く)を対象に、男性不妊と診断され、泌尿器科医による診療を受けたグループ、男性不妊と診断されたけれども、泌尿器科医による診療を受けなかったグループ、男性不妊でないグループの治療成績を比較しました。

その結果をざっくりと言ってしまえば、男性不妊と診断され、泌尿器科医による診療を受けたグループは、受けなかったグループよりも妊娠率が良好で、男性不妊でないグループと妊娠率は同等だったというものでした。

つまり、男性不妊では泌尿器科医による診療が体外受精や顕微授精の治療成績を向上させるということが確かめられたわけです。

もしも、精索静脈瘤があれば精索静脈瘤手術によって、また、たとえ、原因不明の乏精子症や精子無力症であっても、ホルモンや薬物療法、サプリメントによる抗酸化療法によって、精子の質を改善し、その上で、または、それと並行して女性への治療を行うほうが早く妊娠できる可能性が高いということになります。

さて、現実問題として、男性不妊と診断されても、男性への診療が行われないことが多いのは、男性不妊を専門とする泌尿器科医の数が少ないという事情があります。

今回の研究を実施した横浜市立大学附属市民総合医療センターのように女性不妊の専門医と男性不妊の専門医による診療を受けられば理想的ですが、そんな施設は日本では数えるほどしかありません。

ただし、不妊治療専門クリニックで男性不妊外来があれば問題ありません。

もしも、それでなければ、自力で探すしかありません。

不妊治療を受ける女性の年齢が高齢化していること、不妊治療の治療費が高額であること、女性への肉体的、精神的、時間的な負担は決して軽くないことを考えると、泌尿器科医による診療を受けることで治療成績を向上させることはとても大切なことです。

男性側に原因があった場合、男性への治療を行い妊娠を目指すということは当たり前に聞こえるかもしれませんが、さまざなな事情で現実にはそうなっていませんでした。

ただし、最近になって、ふたりで検査や治療を受けられる施設が少しずつ増えてきています。

現在、そのような環境になければ、自分たちで求めることができる可能性が高くなっているというわけです。

男性不妊の専門医を探す最も確実な方法は「生殖医療専門医の都道府県別一覧のサイト」でみつけることです。専攻が泌尿器科となっている先生が男性不妊のスペシャリストです。