6月2日から4日まで、東京国際フォーラムで第17回日本抗加齢医学会総会が開催されました。
2日の金曜日には、山口大学医学部の産婦人科准教授の田村博史先生による講演、「加齢に伴う卵胞数の減少、卵子の質の低下をメラトニンが予防する」を聴講しました。
メラトニンの生殖機能への作用についての研究の第一人者による講演ということで、以前から楽しみにしていましたので、講演終了後にも田村先生にお話をお伺いしてまいりました。
田村先生のグループは、メラトニンの長期投与による卵子のアンチエイジングへの有効性を検討すべく、10週齢の雌マウスに43週齢までメラトニン水を飲ませ、水だけを飲ませた同齢のマウスと卵巣内の原始卵胞や各発育段階の卵胞の数、そして、体外受精を実施し、その成績を比較しました。
その結果、メラトニンを飲んだマウスは飲まなかったマウスに比べて卵子の数が多く、体外受精の治療成績も良好だったという結果が得られたというのです。
そして、特筆すべきことは、メラトニンを飲ませたマウスでは、抗酸化作用や細胞の寿命の目安になるテロメア長、長寿遺伝子であるサーチュインなどの遺伝子発現量が増加していたことです。
このことから、メラトニンそのものが抗酸化物質として働いているだけでなく、メラトニンの受容体への結合を通して、さまざまな老化を遅らせるシグナルがさまざまな経路で発せられ、卵子の数や質の低下を遅らせるように働いているということが明らかになったとのこと。
また、中国やトルコからも同様の研究報告が相次いでいます。
もちろん、あくまでマウス試験ですので、そのまま人間にあてはまるというわけではありませんが、メラトニンはこれまで考えられていた以上に、広く、かつ、深く、生殖機能の維持に働いているようです。
メラトニンは明るくなると分泌量が減少し、暗くなると増えるホルモンですから、「光」環境は生殖機能に密接に関連しているというわけです。
今年の抗加齢医学会では、理事長の慶応義塾大学医学部眼科学の坪田教授からも、「光環境とアンチエイジング医学」という講演がありました。
現代社会ではLED等の発明で、夜まで光で満ち、昼夜の境がなくなったことによってヒトのサーカディアンリズムが乱れ、睡眠の質が低下しており、そのことが加齢を早め、加齢関連疾患の発症リスクを高めているというお話でした。
光環境でもとくに注目されるのは「ブルーライト」で、これがサーカディアンリズムを規定し、睡眠にも大きな影響を与えているといいます。
ブルーライトの最も強力な光源は「スマホ」です。
夜までスマホを使い、さらに、ベッドにまでスマホを持ち込むことによって、ブルーライトを浴びた脳は、昼間と勘違いし、メラトニンの分泌量が減少、その結果、睡眠の質が低下してしまっているとのこと。
坪田教授は光環境と健康は現代社会の大きな問題点であると指摘されましたが、光環境は生殖機能との関連も密接で、メラトニンの減少は卵子の老化を早めることがわかってきたわけです。
つまり、順番的には、夜間のスマホ使用は加齢に関連する生活習慣病を発症させる前に、まずは、生殖機能を損なうということになるのです。
さらに、坪田教授の講演では、子供が屋外で遊ぶ時間が短くなるほど、近視の子供が増えるという事実を指摘され、それはバイオレットライトが関与しているのではないかという仮説を提唱されました。
バイオレットライトは屋外でしか浴びることができない波長の光で、室内だとたとえ明るくてもガラスによって遮断されるのだそうです。
このバイオレットライトには近視を予防する働きがあるため、屋外でいる時間が短くなり、バイオレットライトを浴びる機会も少なくなることが近視の蔓延の一因ではないかというものです。
いかがでしょうか、人間らしい光環境で生活することは、妊娠する力の維持だけでなく、生涯を通じて家族の健康にまで、大きく影響することがおわかりいただけたでしょうか?
妊活に取り組み、不妊治療を受けている一方で、もしも、夜もスマホを操作し、ベッドにまで持ち込んでいるとすれば、それは、本末転等な行為と言わざるをえません。
暗くなるとスマホを操作しないことは、なんの労力も、お金もかかりません。
人間らしい光環境を整える、すなわち、朝に屋外で太陽光を浴びて、夜は暗くすることは、私たちに備わった生殖力やさまざまな健康維持機能を守ることになるということを、是非、知っておいて欲しいと思います。