編集長コラム

細川 忠宏

妊活カップルに糖質制限は必要なのか?

2018年06月05日

糖質制限がブームになって久しくなりますが、最近、糖質を制限するようになってから便秘がちになったとか、糖質制限スイーツを毎日食べるようになったとか、糖質制限食に対する不安というか、疑問をぶつけられることが多くなりました。

糖質制限食は、そもそも、糖尿病や糖尿病予備軍の方のための薬に頼らない血糖値コントロール策として、また、糖質を過剰に摂取し、肥満や生活習慣病リスク対策として、それぞれに有効な食事療法であったはずです。

そのため、どの程度糖質を減らし、どのような食事にすべきかについては、それぞれの目的や事情に応じて適切な方法があるわけです。

ところが、「糖質制限」という言葉だけが一人歩きした結果、糖質や糖質を含む炭水化物は、まるで、「悪」であるかのような、行き過ぎた風潮が出てきたり、世の常ではありますが、便乗商法も盛んになってきたりしているようです。

その結果、とにかく炭水化物はダメ!と頑張った結果、糖質だけでなく、炭水化物に糖質と一緒に含まれる食物繊維まで制限することになって便秘がちになったり、糖質制限スイーツと称する加工食品を常食するようになったりと、何のための糖質制限なの?というようなことが、あちこちで見聞きするようになりました。

そこで、お子さんを望むカップルにとって糖質制限は必要なのか?について考えてみたいと思います。

まずは、糖尿病や糖尿病予備軍であったり、肥満やメタボ体質であれば、糖質制限食は有効であることは間違いありません。

そのような事情がない場合でも、糖質制限は有効なのでしょうか?

炭水化物の摂取と生殖機能の関係について多くの研究報告がなされています。

ハーバード大学の研究で、2万人の女性看護師を2年毎に食事調査を行い8年間追跡して結果、「精製度の高い穀物」を多く食べる女性は排卵障害の不妊症になりやすく、反対に全粒穀物のような「精製度の低い穀物」を多く食べる女性はなりにくいという報告がなされています(1)。そして、炭水化物は「量」でなく、精製度、すなわち「質」が不妊症と関連すると結論づけています。

もちろん、質の高いのは精製度の低い炭水化物で、炭水化物は「どれくらい」ではなく「どんな」が大切であるというわけです。

同じハーバード大学の研究で、全粒穀物の摂取量が多い女性ほど体外受精や顕微授精の出産率が高いという報告もなされています(2)。

全粒穀物の摂取量は子宮内膜の厚さに関連し、成熟卵数や受精率、胚質などには関連しなかったことから、全粒穀物の摂取は良好な着床環境に関与しているのかもしれません。

このように、質の低い炭水化物、すなわち、白米や白いパン、砂糖など、精製加工食品を食べ過ぎることが妊娠にマイナスの影響を及ぼすようです。

なぜなのでしょうか?

精製していない穀物には、ビタミンやミネラル、食物繊維、ポリフェノールが含まれていますが、精製するとそれらを捨ててしまいます。

また、精製していない穀物は消化に時間がかかり、血糖値の上昇はゆっくりになりますが、精製度の高い穀物は血糖値の急上昇を招きます。

これらは炭水化物そのものの違いですが、精製度の低い炭水化物を多く食べる人は野菜や魚介類、果物も多く食べ、反対に精製度の高い炭水化物を多く食べる人はスナック菓子や赤身肉を多く食べる傾向があるという研究報告があります(3)。

つまり、全粒穀物などの精製度の低い穀物を多く食べる人は全体として健康的な食事をしており、精製度の低い穀物を多く食べる人は、不健康な食生活になりがちだと。

結局は、なんでもバランスよく食べることが大切であるというわけです。

「糖質を制限するかしないか」ではなく、「バランスよく食べるか食べないか」、ここにこだわるべきだということになります。

そもそも、糖質の過剰摂取の原因の一つに加工度、精製度の高くなった現代の食環境があります。

糖質制限ブームに煽られて、偏った食べ方になったり、加工食品を多く食べるようになってしまっては、本末転倒です。

新鮮な旬の食材を調理した食事を楽しみたいものです。

文献)
1)Obstet Gynecol 2007; 110: 1050-108
2)Fertil Steril 2016; 105: 1503-1510

3)British J Nutrition 2015; 113: 1595-1602