編集長コラム

細川 忠宏

サバイバルする力を信じたい

2019年01月07日

胚のグレードって、なんやったんやろ・・・。

去年の12月に行われた日本産科婦人科学会のPGT-A(着床前スクリーニング)についての公開シンポジウムに参加し、PGT-Aの試験的な臨床試験を行っているクリニックの報告を聞いた時、そう思わずにはいられませんでした。

これまで、胚のグレードは「見た目」によるもので、形態のよい胚がよい、すなわち、妊娠、出産に至る可能性が高いと考えられてきわけです。

ところが、PGT-Aを行ってみると、見た目がよく、グレードが高いとされた胚でも、必ずしも染色体の数が正常だとは限らない、反対に、これまでグレードが低いとされていた胚でも異常がない胚があったというのです。

驚きました。

実際、そのクリニックでPGT-Aの検査結果に従い、胚を移植し、妊娠に至った胚は、見た目が悪く、PGT-Aを実施しなければ、ずっと後回しにされていただろう胚だったことも報告されていました。

胚も「見かけによらない」ことがある、そういうことになります。

そもそも、PGT-Aというのは、体外受精の際に胚盤胞まで育てた受精卵から数個の細胞を取り出し、核内の染色体の数を調べる検査で、妊娠、出産の確率を高めることを目的とした遺伝学的検査です。

そのため、これまでわからなかったことがわかってきたのは、遺伝情報を調べて、解釈する技術の進歩によるものです。

早とちりしないよう注意しなければならないのは、だからと言って、PGT-Aと言えども、万能のツールではないことです。

PGT-Aで染色体の数を調べているのは胎盤になる一部の細胞のみで、胚の良し悪しが完全に把握できるわけではありませんし、染色体の数が正常か異常かという結果だけでなく、それらがさまざまな割合で混在する胚(モザイク)の存在し、そんな胚でも妊娠に至り、健康な子どもが生まれることがあり、評価や判断を難しくさせてもいます。

このように、限界があることもわかってきた今、どのように活用すべきか、今後の研究に期待したいところです。

ただ、ここではPGT-Aについて論じることが目的ではありませんし、ましてや、これまでの胚の評価法が全く無駄だったと言いたいわけでも、考えているわけでもありません。

そうではなく、妊娠や出産に関わっているものやことはたくさんあって、そのプロセスでは、なにがよい結果に結びついて、なにが結びつかないか、決して、一概には言えないということを、お子さんを望まれるカップルは知っておいたほうがいいのではないかということを言いたいのです。

もしも、治療のプロセスに一喜一憂し、心を乱したり、いろいろな心配や不安を抱え込んだりしているのであればすこしはやわらぐかもしれません。

世間でいいとされている学校に入学し、いいとされている会社に入ることが、必ずしも、その人の幸福につながるわけではありません。

同じように、こと、妊娠に至るプロセスでは、なにがプラスになり、なにがマイナスになるか予測がつきません。

そのため、なにが正常でなにが異常か、どこまでが正常でどこからが異常なのか、少し柔軟にとらえたほうがよいのかもしれません。

いまいま、こだわっていることは妊娠や出産に絶対に必要な条件なのかどうか、誰にもわかりませんし、誰にもコントロールできないからです。

自分自身やパートナーに対しては、異常を心配したり、不満や不信感を抱いたりするよりも、信頼できる関係を築きたいものです。

いろいろなことがおこっても、なんとかサバイバルする、そんな力を信じたいからです。そのためには、コントロールできることを、着実に取り組んでいくことしかないように思います。