編集長コラム

細川 忠宏

やる気にさせる環境を整える

2019年11月04日

若さの維持や長寿の秘訣については、いろいろなことが言われていますが、唯一、動物実験でその効果が確かめられているのは「カロリス」です。

カロリスとは、カロリーリストリクションの略で、そのまま訳せば「カロリー制限」で、栄養素バランスはそのままで、単に食べる量を少なくするというものです。

つまり、腹八分目ということです。

これまでウイスコンシン大学とアメリカ国立老化研究所が、アカゲザルを使った試験を実施し、それぞれの研究成果を発表しています。

寿命延伸効果の結果については食い違うところもありますが、カロリスは若さの維持や長寿に寄与することは間違いないようです。

もちろん、なぜそうなるのか、そのメカニズムが明らかにされたわけではありません。

ただし、栄養バランスを保ちながら、摂取カロリーだけを控えると、細胞の寿命を延ばそうとする働きの遺伝子のスイッチがオンになり、オートファジーが促進され、ミトコンドリアが活性するのではと考えられているようです。

要するに、古い細胞がなくなり、新しい細胞がつくられるというサイクルがスムースに進むということです。

本当に驚くべきことに、細胞の生命力を強くするのはカロリーを「増やす」のではなく、「制限する」ことによるということです。

エネルギー源が、たっぷりある状態ではなく、むしろ、不十分くらいのほうが、エネルギーをつくる能力が高まるというのです。

つまり、環境が細胞を「やる気」にさせるということになります。

いくら、食べ物を与えても、食べる側に「やる気」がなければ、与えた食べ物は無駄になってしまいます。

このことは、妊活にも大きなヒントをもたらせてくれています。

私たちは、妊活食と称して、「何を食べればいいのか」のほうに関心を持ち、妊活によいものであれば、「もっと」食べようという気になりがちです。

ところが、そのこともさることながら、細胞、すなわち、私たちの身体が「やる気」になるほうにも目を向けないと、片手落ちになってしまうのではないかということです。

摂取した栄養素をエネルギーや身体に変換する力の源は、「食欲」という「やる気」であり、パートナーの精子を受け入れ、新しい命に育む力の源は、「性欲」という「やる気」であるはずです。

多くの妊活情報に接し、頭であれこれ考えるよりも、私たちに備わっている「欲求」が高まり、「やる気」が充ちてくる、そんな環境をつくり、身をおくことも大切なことのように思えてなりません。

もしも、「やる気」が起こらないなあと感じているのであれば、「やる気」を阻害しているものを排除してみてはいかがでしょうか。

くれぐれも誤解なきようにお願いしたいのは、大切なのは「ご本人」ではなく、「細胞(身体)」の「本気モード」です。

ご本人のやる気はともすれば「身体」のやる気を抑制してしまいかねませんので。