最近、ボストン大学公衆衛生大学の研究者らは、デンマークと北米の妊娠希望女性、それぞれ、2709名、4268名を対象に炭水化物の摂取状況と妊孕能(妊娠しやすさ)の関係を調査した前向き研究の結果を発表しました。
それによりますと、グリセミックロード(食後血糖値の上昇しやすさ)や炭水化物/食物繊維摂取比、添加糖の摂取量が高いほど、周期あたりの妊娠率が低かった。その一方で、炭水化物の摂取量は妊娠率に関連しなかったとのこと。
要するに、妊娠率の低下は、炭水化物の「量」ではなく、「質」と関連するということになります。
昨今、糖質制限に関心が高まっていますが、生殖機能との関連から言えば、注意すべきは、炭水化物そのものではなく、質の低い炭水化物の摂取が招く「食後血糖値の急上昇」なのですね。
取り組むべきは、炭水化物の制限ではなく、質の低い炭水化物の制限なのです。
具体的には、白米や白いパン、白い砂糖など、精製度や加工度の高い穀物を減らすことです。それらは、消化吸収のスピードが早く、速やかに血中にブドウ糖となってあらわれるからです。
反対に玄米や胚芽米、全粒粉パンを中心にすると、消化吸収に時間がかかるため、血糖値の上昇もゆっくりとしたものになります。
また、食事以外では、空腹時の砂糖入りスイーツや砂糖入り清涼飲料水などもてきめんです。特に、有名な外資系カフェで人気の甘い飲み物は要注意で、知らないうちに大量の砂糖を摂取することになります。
研究チームは、食後高血糖はインスリンの分泌量を増やし、それが続くと、インスリン抵抗性や高血糖を招くことになること、その結果、フリーテストステロン濃度が上昇し、卵巣機能が低下したり、高血糖そのものが卵子や胚にダメージを与えるおそれがあると述べています。
さて、その一方で、今や、どこのコンビニやスーパー、百貨店でも、精製された炭水化物が溢れんばかりに、かつ、美味しそうに、販売されています。さらに、津々浦々、カフェが立ち並び、ちょっとした時間つぶしや気分転換にうってつけです。
そんな、質の低い炭水化物の商品の量と選択肢が急増した現代にあっては、主体的、かつ、理性的に口に入れるものを選択しない限り、卵子や精子を守ることが出来ないと言っても、決して、過言ではないと、私たちは思っています。
採卵後は高い培養技術で、理想的な環境で培養されると言っても、ほんの数日間です。
原始卵胞が目覚め、成熟するまでの数ヶ月間、そして、胚が子宮内膜に着床してから新しい命が育まれる環境の良し悪しは、母親になる女性と父親になる男性の食生活をはじめとするライフスタイルに大きく左右されることが、この10年間の多くの研究で明らかになりました。
高い生殖医療技術を求める一方で、もしも、自らの体内環境に無頓着なのであれば、それこそ、本末転倒です。
卵子や精子、受精卵、胚、胎児の成育環境を良好に保つために、最も大切なことはカップルが、自分自身を大切にすることに尽きるのではないでしょうか。
空腹時に砂糖を食べることを繰り返し、インスリンの大量分泌を促すことは、インスリンの分泌臓器である膵臓を疲弊させることになり、それは、ヒトが毎日の食糧さえ確保するに苦労した太古の昔に生き残るために備わった身体のメカニズムを無駄に使うことに他なりなりません。
考えてみれば、表面的な快適さを追求した結果、知らず知らずに自らの身体に負荷をかけていることが少なくありません。
白い炭水化物による膵臓への負荷だけでなく、1日中スマホを眺めることによる眼球や体内時計への負荷、身体を動かさないことが招く全身の細胞への酸素や栄養素の供給不足によるあらゆる部位への負荷、思い込みや勘違い、抑えきれない感情が招くストレスによる心身への負荷など。
正しい情報に接し、主体的に日々の暮らし方を選択することで身体への負荷を取り除き、妊孕能を守りたいものです。
妊娠力は高めるものというよりも、守るものなのかもしれません。