編集長コラム

細川 忠宏

根っこを強くする機会にしたい

2020年04月06日

新型コロナウイルスの感染がどこまで、いつまで続くのか、先の見えない中で、今、現在、不妊治療を受けてるカップル、これから不妊治療を受けようと計画されているカップルにとっては、このまま治療や計画を継続すべきかどうか、本当に、悩ましい判断になると思います。

2020年の春をこんな状況で迎えることになろうとは想像だにしませんでした。

医療やIT技術の発展で、なんと言うか、漠然と根拠なく抱いていた万能感のようなものに冷や水を浴びせかけらたような感じです。

その一方、前のめり感も解消され、落ち着いて足元をみていこうという感じもあります。

また、そもそも、最前線で闘われている医療関係者の方々のことを思うと、感謝の気落ちでいっぱいになり、自分の不安など片隅に追いやられてしまいます。

そんな中、毎日、メールや電話で、この機会に「カラダづくり」に取り組もうと思うというお声を、ちらほらいただくようにもなりました。

なるほど!と思いました。

仕事をはじめとした生活面でいろいろな制約を受けざるを得ない、こんな時こそ、頭の中や生活をリセットするチャンスなのかもしれません。

予想だにしなかったことが起こるということを目の当たりにしたわけですから、あらゆる、自分の中の「当たり前」を疑ってみることは意味のあることでしょう。

そこで、まず、お勧めしたいのは「書く」ということ。

自分が、今、思っていること、感じていることを書き出すことで、体外受精の治療成績にプラスの影響を及ぼす可能性があるという研究報告がなされています。

自分が思っていることや感じていることを「書く」だけで、ネガティブな感情が少なくなり、ポジティブな感情が高まり、ストレス緩和になるだけでなく、幸福感まで高まるというのです。

ローマ大学で、体外受精に臨む女性患者を筆記療法を行うグループとなにもしないグループにランダムに分け、治療成績を比較しています。

治療前から採卵前まで、専門家のアドバイスのもとに、不妊治療を受けることで思ったことや感じたこと、そして、その考えや感情を深く掘り下げ、パートナーや両親、友人、親戚との関係、また、過去、現在、未来の自分をみつめ、自分は今、そして、この先、どうなりたいか、1日20分で一気に書くというものです。

その結果、妊娠率は筆記療法グループでは28%、なにもしなかったグループでは5%で、「書いた」ほうが妊娠率が有意に高かったというのです。

単に、書くという行為でこれだけ妊娠率に差が出るというのは驚きです。

専門家は、日々の経験を文字にすることで、自分を客観視できるようになり、気づきがあるといいます。

その結果、考えや気持ちが整理され、視野が広がるといいますから、まさに、「書く」ことの効用です。

メンタルの状態が治療成績に及ぼす影響は目にみえず、測定することは出来ないため、筆記療法がどのようなメカニズムで妊娠率の向上につながったのかを明らかにすることは難しいものの、不妊治療のストレスを軽減したり、なにより、治療成績に振り回され、自分を見失わないようになれるだけでも、コミュニケーションをとったり、判断したりする力にプラスになることは間違いないでょう。

もう1つ、「家で食事をする」ということ。

ファストフードや中食、冷凍食品などの「家庭で調理しない食事」を食べる頻度が高い女性ほど不妊症のリスクが高いという最新の研究報告があります。

全米で実施された、2013~2014年と2015~2016年の国民健康・栄養調査(NHANES)のデータから2143名の女性のから「家庭で調理しない食事」の頻度と不妊症の関連を解析しています。

その結果、家庭で調理しない食事が1日1食以下の女性は、家庭で調理しない食事をしない女性に比べて、不妊症リスクが1.45倍 、同様に、1日1食より多い女性で2.82倍だったというのです。

また、ファストフードまたはピザを1日1食以上食べる女性は、全く食べない人と比べて不妊リスクが2~3倍だった一方で、惣菜を買って家で食べる頻度は関連しなかったといいます。

食事は生活スタイルが強く反映されますので、「家で食べる」頻度を増やすことで、食事内容もより健康的になるということでしょう。

「書く」ということ、「家で食事をする」ということ、いずれも心やカラダの根っこを強くしてくれるに違いありません。

そういう意味で、災い転じて福となしたいものです。