編集長コラム

細川 忠宏

妊娠に良いか否かではなく、楽しめるか楽しめないか

2021年07月05日

運動、すなわち、身体を動かすことは、健康に長生きすることによいことは、間違いありませんが、妊娠する力にもよい影響を及ぼすことは、よく知られています。

ところが、ART治療(体外受精や顕微授精)を受ける女性にとっては、同じ運動でも、目的や強度によって治療成績に及ぼす影響が異なるという研究報告がなされています。

ハンガリーで、ART治療を受ける60名の女性を対象に行われた最新の研究なのですが、まずは、被験者女性に、普段の身体活動についての質問票に回答してもらうだけでなく、活動量計を装着してもらい、週単位の運動の種類や程度を調べました。

そして、抑うつの程度を測る質問票にも回答してもらい、不妊治療のメンタルへの影響も調べています。

その結果は大変興味深いもので、まずは、楽しみを得るための運動は不妊や不妊治療で受ける苦痛をやわらげる効果があることがわかりました。

そして、楽しみのための運動は、採卵時の採卵数や成熟卵数、その後の獲得胚数、そして、妊娠率によい影響を及ぼしていたというのです。

その反対に、仕事のような義務的な運動は妊娠にマイナスの影響を及ぼしていたとのこと。

要するに、不妊治療を受けている女性にとっては、義務的な運動ではなく、楽しみでやる運動が、精神面にも、治療成績にも、有利に働くことが示唆されたというわけです。

実際に筋力トレーニングにおいても、強制されたトレーニングでは、自発的な運動ほどの効果が得られないという研究報告もあるとのこと。

そこには、脳の働きが深く関わっていると。

ここに、妊活の落とし穴があるように思えてなりません。

妊娠したいというモチベーションによる運動は、ともすれば、強制された運動になりかねないからです。

大切なことは、妊娠のためではなく、楽しみのためにやるということになります。

ただし、やっぱり、妊活は妊娠のための活動であり、どう考えても、妊娠が目的にならざるを得ません。

ここが、あらゆる妊活の、大変、悩ましいところがあるわけです。

そう言われても困る、という。

そこでこう考えてみてはどうでしょうか。

それは、運動にしろ、食生活にしろ、あらゆる妊活をはじめるきっかけは、「楽しみ」ではなく、「妊娠」のためでよいと思うのです。

そこは、気にしないで、やりはじめて、いくらやっても気持ちが乗ってこない、要するに、楽しめなくて、苦痛なままなのであれば、すっぱり、やめてしまうのです。

もしも、たとえ、最初のきっかけが、半強制的であっても、やっていくうちに、楽しめるようになれば、こっちのものです。

そうすれば、日常生活に、新たな楽しみが増えて、かつ、妊娠にも近づけるということになります。

極論すれば、楽しいこと、楽しめることしかやらない!ということになります。

ここの見極めが大切なのではないでしょうか。