編集長コラム

細川 忠宏

自分のことを知るということ

2021年12月30日

サプリメントの飲み方について、質問されることがよくあります。

サプリメントメーカーなので、当然なのですが、最近、事細かに、聞かれることが多くなったように思います。たとえば、食後であれば朝食後か夕食後なのか、また、分けるのがいいのか、まとめたほうがいいのか、さらには、サプリメント同士やお薬との飲み合わせなど、です。

おそらく、複数の種類を飲んでいたり、お薬と一緒に飲んでいるということもあると思いますが、やはり、適切に使い、無駄にしたくないという思いからなのだと思います。


皆さん、サプリメントを、なんとなくではなく、不妊治療のプラスアルファ的に使っていただいていることが多く、そのため、限りある治療機会を無駄にしたくない、出来ることはすべてやっておきたいという思いがひしひしと伝わってきます。

私たちとしては、その度に背筋が伸びる思いになります。

それと同時に、だからこそ、適切な飲み方だけでなく、適切な使い方をしていただきたいと思います。

それは、サプリメントは食事などの生活習慣の改善とセットだということです。そもそも、サプリメントとは「補足」なのですね。なので、なんのためにサプリメントを使うかと言えば、「補足」される側の「主体」をよくするためです。もしも、「補足」だけで「主体」がよくなれば、よいのですが、非常に限られています。やはり、「主体」をよくしながら、「補足」するのが適切な使い方ということになると思います。

最近、そのことを教えてくれる研究報告「Asian Journal of Andrology (2021) 23, 1-6; doi: 10.4103/aja202180; published online: 16 November 2021」がなされています。

中国の貴州省の貴州医科大学の研究で、310名の男性不妊患者にコエンザイムQ10、ビタミンC、ビタミンEを含むサプリメントを3ヶ月間飲んでもらい、6ヶ月間追跡調査を行い、精液検査結果が改善されたかどうかを、異物代謝酵素の遺伝子の特徴ごとに調べています。

異物代謝酵素というのは、ごくごく簡単に言ってしまえば、身体に悪い影響を及ぼすものを無毒化して、排泄されるように働く酵素のことで、この酵素の働き具合(酵素活性)には遺伝的な特徴による個人差があることが知られています。

そして、研究結果は、異物代謝酵素の活性が正常な男性は精液検査結果が改善されましたが、酵素活性が低い遺伝的な特徴をもつ男性では改善されなかったというものでした。

要は、同じ抗酸化サプリメントを飲んでも、効果には遺伝的な特徴によって個人差があるということになります。

活性酸素を無毒化する身体の働きには個人差があるというわけです。

そのため、その働きが低い人は、高い人に比べて、ある意味、ハンデがあるわけです。

ここで大切なことは、酵素活性が低い遺伝的な特徴をもつ人は、活性酸素が過剰にならないようにし、そのことでハンデを克服することです。

あらゆる身体特徴には個人差があります。

そもそも、人間の身体は機械ではなく、遺伝的な特徴だけでなく、健康状態や妊娠する力に影響を及ぼす因子は、いろいろな程度で、無数と言っていいくらいにあるわけです。

不妊症は多因子疾患と言われるゆえんです。

妊娠する力が低下している場合、これさえやっておけば大丈夫というケースは、極めてまれです。

関与する因子を可能な範囲で調べて対策を講じていくことが基本ですが、それでも限界があります。

ベースは、身体が妊娠しようとする働きを整えることです。

それは、ある意味シンプルで、バランスのとれた食生活と規則正しい生活リズム、適度な運動、休息(睡眠)、そして、精神的な安定です。

さて、「個人差」については、どのように対処すればいいのでしょうか?

それは、試行錯誤しながら、自分のことを知る、そして、それを積み重ねていくことで精度を高めていく、これに尽きるのではないでしょうか。