昨年、厚労省は、15年ぶりに「妊産婦のための食生活指針」をアップデイトしましたが、そのタイトルは、「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」で、特に、妊娠してからではなく、妊娠前からはじめるべきであるということを強調しています。
妊産婦のための食生活指針は、そのまま、「妊娠希望カップルのための食生活指針」になるというわけです。
胎児の正常な発育に必要とされる食事は、そのまま、卵子や受精卵、胚の正常な発育に必要とされる食事になる、つまり、「育む力」と「妊娠する力」は、イコールであるということです。
これまで、妊娠前(妊娠するため)の食生活については、オフィシャルなガイドラインがありませんでしたので、この改訂には大きな意味があります。
・「主食」を中心に、エネルギーをしっかりと
炭水化物の供給源であるごはんやパン、めん類などを主材料とする料理を主食といいます。妊娠中、授乳中には必要なエネルギーも増加するため、炭水化物の豊富な主食をしっかり摂りましょう。
・不足しがちなビタミン・ミネラルを、「副菜」でたっぷりと
各種ビタミン、ミネラルおよび食物繊維の供給源となる野菜、いも、豆類(大豆を除く)、きのこ、海藻などを主材料とす る料理を副菜といいます。妊娠前から、野菜をたっぷり使った副菜でビタミン・ミネラルを摂る習慣を身につけましょう。
・「主菜」を組み合わせてたんぱく質を十分に
たんぱく質は、からだの構成に必要な栄養素です。主要なたんぱく質の供給源の肉、魚、卵、大豆および大豆製品などを主材料とする料理を主菜といいます。多様な主菜を組み合わせて、たんぱく質を十分に摂取するようにしましょう。
・乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などでカルシウムを十分に
日本人女性のカルシウム摂取量は不足しがちであるため、妊娠前から乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などでカルシウムを摂るよう心がけましょう。
・葉酸について
妊娠前から妊娠初期にかけて、葉酸というビタミンをしっかりとることで、赤ちゃんの神経管閉鎖障害の予防につ ながります。神経管閉鎖障害とは、胎児の神経管ができる時(受胎後およそ28日)に起こる先天異常で、無脳症・ 二分脊椎・髄膜瘤などがあります。妊娠を知るのは神経管ができる時期よりも遅いため、妊娠を希望する女性は緑 黄色野菜を積極的に摂取し、サプリメントも上手に活用しながら、しっかり葉酸を摂取しましょう。
もう1つのトピックは、腸内細菌です。
腸内細菌があらゆる健康に深く関わっていることが、最近の多くの研究であきらかになっています。
この腸内細菌においても、母親の腸内細菌叢の良し悪しが「育む力」と「妊娠する力」のいずれにも深く関わっています。
妊娠や出産時に母親の常在細菌叢が、そのまま、子どもに移行することが知られています。
その一方、膣や子宮、腸内の細菌の種類や量が着床や妊娠に影響を及ぼしている可能性があるという研究報告がなされています。
そのため、子宮内の細菌叢を調べる検査が広まり、善玉菌が少なければ、増やす試みに対しての関心が高まっています。
そもそも、妊娠の成立には免疫系が深く関与していて、さまざまな不妊原因やリスク因子が知られています。
もちろん、それぞれの原因やリスク因子に対しての治療やケアがありますが、免疫系は複雑で、一筋縄ではいかないところがあるようです。
そんな状況にあって、今後は、腸内環境対策の重要性が、ますます、高くなることは間違いないと思われます。
腸内環境と免疫の関係は極めて密接で、免疫細胞は骨髄でつくられ、血液やリンパ液にのって全身を巡っていますが、その免疫細胞の約70%は腸に存在していると言われています。
最大の消化器官である腸は、細菌やウイルスなどの外部から入り込んだ異物と関わることが多い場所で、有害物質を体内に入れないために免疫細胞が集まっているのは当然と言えば当然だと言えるかもしれません。
そのため、いくら、下流を整えても、上流(腸内環境)を整えなければ、意味がないと言っても過言ではありません。
そして、腸内環境に主に影響を及ぼすのが「毎日の」食習慣です。
ポイントは、地中海食を取り入れることで、その特徴は以下の通りです。
・野菜、果物の摂取量が多い。
・全粒粉を使っている。
・脂質はオリーブオイルが中心。
・ナッツ類、ベリー類、豆類、イモ類の摂取量が多い。
・魚、鶏、乳製品を少量から中量、赤身肉の摂取は少ない。
・卵は週4回以下。
・少量から中量のワインを食事と一緒に飲む。
和食と地中海食の「差」は野菜や果物の量と主食の精製度です。そのため、野菜や果物を意識して増やし、玄米や胚芽米、全粒粉パンを取り入れると地中海食に近づきます。
以上、妊娠希望のカップルにふさわしい食生活のポイントとして、厚労省の「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」と「腸内細菌を整えるための地中海食」を取り入れることをお勧めします。