編集長コラム

細川 忠宏

選択肢が増えるということ

2022年02月06日

このメルマガをはじめて(2003年9月6日)から、17年とちょっとになりますが、いつ頃からか、不妊治療の変化のスピードが早くなっているように感じます。

医学や医療技術の進歩で、治療や検査の選択肢が増えたことが大きいと思います。

選択肢は限られているよりも、多いに越したことはありません。

ただし、それは、自分で、自分に最適な選択が出来るのであれば、という話しです。

すなわち、自分で、自分に最適な選択肢がわかっているのであれば、選択肢が増えるのは、大歓迎です。

ところが、もしも、自分に最適な選択肢がわからない、自分だけで判断できない、判断することが難しいのであれば、選択肢が増えることは、悩みを深くしたり、ともすれば、いろいろなものや人に対して、疑心暗鬼に陥ったりしてしまいかねません。

行動経済学でジャム実験という有名な研究報告があって、お店のジャムのディスプレイが24種類の時と6種類の時を比較すると、6種類の時のほうが売れたというのです。

この結果から、選択肢が多すぎると迷いやすくなって、結局、買わなくなって(選択をやめて)しまう傾向があることがわかります。

このことからもわかるように、なにかを選択するには、それ相応のエネルギーが要るようです。

まあ、なにを食べたいかという、至極、簡単なことでも、メニューが多ければ多いほど、迷ってしまうことはよくあることですので、よくわかります。

こと、不妊治療で言えば、「先が見えない」、つまり、結果が保証されているわけではありませんので、治療や検査の選択肢が多いというのは、やはり、表現は極めて不適切ですが、泥沼にはまってしまいかねないリスクがあります。

この4月からはじまる、不妊治療への保険適用は、経済的な支援がなされるという観点から言えば、もちろん、大歓迎です。

その一方で、保険内で受けるか、自分に必要な治療であれば自費でも受けるか、あらたな選択肢が増えることになり、自分に最適な不妊治療を進めるという観点から言えば、相当、心してかからないといけません。

さて、前置きが長くなりましたが、言いたいのは、選択肢が増えることを自分たちに有利になるようにするには、選択の「スキルとセンス(みたいなもの)」が必要ではないでしょうか、といくことです。

まず、選択肢についての知識を増やし、増やすだけでなく、選択肢についての理解を深めることが大前提になるかと思います。

それに加えて、自分たちの体内で起こることですので、ヒトの身体の仕組みについても、理解を深めたいものです。

専門的な領域ですので、簡単なことはでないかもしれませんが、自分たちの身体や生活の質を大切に考えると、興味をもって勉強できる領域でもあるはずです。

もちろん、その領域に詳しい人に教えてもらうこと、助言してもらうことも避けて通れません。

いずれにしても、ある意味、複雑な世の中になると、勉強すること、そして、そこから得た情報を取捨選択し、解釈することが、とても大切になってきます。

また、あらゆる選択で悩ましいのは、それぞれの選択肢を、予め比較できないことにあります。

お試しは、あくまで、お試しであって、本番ではありませんので、どこまでいっても、やってみなければわからない、です。

なので、選択した結果、当初期待していたものが得られなかった場合、短期的には選択が失敗したということになるかもしれません。

その場合でも、その結果は受け入れざるを得ません。

ただし、大きなものも得られます。

それは、やってみなければわからないことが、わかったということです。

そのこと、そのものが極めて貴重なケーススタディであり、経験になるからです。

その経験をこれからの糧に出来れば、それからは、選択の成功率が多少でも高まることは間違いありません。

これを繰り返すことで、人生はあとになればなるほど、よくなっていくはずです。

そうなれば、災い転じて「主体的に」福となすことが出来たと言えます。