編集長コラム

細川 忠宏

身体に備わった仕組みを働かせる

2022年05月02日

妊娠中の市販の弁当や冷凍食品などの調理済み食品の摂取頻度が、妊娠12週以降の死産のリスクに関連するという研究報告が、名古屋市立大学産婦人科の研究グループから発表されています(1)。

94,062名の妊娠女性を対象に、調理済み食品の妊娠や出産への影響を調査した研究で、調理済み食品の中でも、電子レンジで加熱調理する食品の摂取頻度と死産が関連していることがわかったというのです。

研究グループは過去に流産を繰り返す女性では血中のビスフェノールA(BPA)濃度が高いという研究報告(2)を行なっていて、BPAは食品容器や缶のコーティングなどに使用されている化学物質で、加工食品を電子レンジで加熱すると溶出することが知られていることから、今回の研究でもBPAが関わっている可能性があのではないかとの見解を示しています。

今回の研究でわかったのは、あくまで、調理済み食品の摂取頻度と死産が相関するということであって、調理済み食品の摂取が死産リスクの上昇を引き起こすことが明らかになったわけではありませんので、妊娠中に調理済み食品を食べると死産のリスクが高くなると受け止めるのは早計ですが、たとえ、可能性であったとしても、注意するに越したことはありません。

ただし、それらを徹底して避け、新鮮な食材を自宅で調理するとなると、相当ハードルが高くなるのも現実です。また、生殖毒性があるとされている化学物質はBPAに限りませんし、体内に入る経路も食品だけではありません。

そのため、完全に避けるには限界があり、徹底すればするほど、かえって、ストレスになりかねません。

そこで、避けることもさることながら、体内で無毒化することも併せて意識することも大切ではないかと思います。

体内では有害な物質の毒性を中和するようなメカニズムが備わっていて、さまざまな栄養素を満遍なく摂ることが、有害物質に対しての最大のリスクヘッジになると考えられるからです。

たとえば、葉酸や大豆食品にはBPAのマイナスの影響を低下させるような働きがあるという研究報告(3)がなされています。

また、農薬や殺虫剤に使われていたDDTによる生殖毒性も、ビタミンB6やB12、葉酸によって中和されることもわかっています(4)。

さらに、メチル水銀の生殖毒性も、セレンなどのミネラルによって軽減されることが明らかになっています(5)。

このような有害性の中和作用のメカニズムについては遺伝子発現の調節やホルモン受容体への作用などが考えられていますが、確かなことはわかっていません。

ヒトの身体の仕組みは私たちが想像している以上に複雑で、通り一遍のものではなく、さまざまな相互作用によって身体を守る仕組みも備わっているということなのかもしれません。

有害な物質を避けることばかりに神経質になり、窮屈な生活を強いるよりも、偏りなく、バランスのよい食生活にこだわって、食を楽しむほうが現実的、かつ、効果的、そして、なにより健全ではないでしょうか。

文献:
1)Nutrients. 2022; 14: 895
2)Hum Reprod. 2005; 20: 2325
3)Reproductive Toxicology 2016; 65: 104
4)Am J Clin Nutr 2014; 100: 1470-8.
5)Environ Res 2019; 168: 357