編集長コラム

細川 忠宏

精子の質に目を向ける

2022年11月07日

情報サイト「精子の質改善ラボ」を公開しました。
https://seishi-kaizen.com/

このサイトの目的は、卵子の質だけでなく、精子の質にも目を向けることの大切さを知っていただくことです。

よい胚を得るには、卵子の質だけでなく、精子の質も深く関与しているにもかかわらず、あまり知られていないように思えてならないからです。

精子というと、数や運動性、すなわち、「量」には目を向けられてはいますが、「質」には、ほとんど、無関心という片手落ち状態のように思います。

おそらく、男性の検査と言えば、唯一、精液検査であり、それでわかるのは、精液中の精子数であり、精子運動率であるわけですから、これまで、「質」について意識することがなかったとしても、当然と言えば、当然なのかもしれません。

実際に、自然妊娠(タイミング法)や人工授精においては、精子が卵子のところまで、到達する必要があり、そのためには、多くの運動性の高い精子が必要になることから、男性の妊娠させる力の目安として、まずは、数や運動性になるわけです。

ところが、体外受精や顕微授精では、数や運動性は、それほど重要でなく、顕微授精にいたっては、もはや、数や運動性は不要です。

要するに、精子と卵子が出会うところまでは、生殖補助医療で行うからです。

そうなると、体外受精や顕微授精で精子に求められるのは、卵子と出会うために必要になる数や運動性ではなく、出会ってからの受精や胚発育、胚盤胞到達、着床、妊娠継続に必要になる「質」になってくるというわけです。

実際、体外受精や顕微授精では精液検査結果は、妊娠率や出産率には、それほど、関係しないという研究報告が多くなされています。

要するに、精液検査結果が良好であった周期の治療で妊娠、出産に至らなかったのに、結果が不良だった周期の治療で妊娠、出産に至るということが、普通に起こり得るということです。

つまり、体外受精や顕微授精では、精液検査は、頼りになる物差しにはなり得ない場合があるということになります。

それでは、卵子と精子が出会ってから、精子に求められる「質」とは、具体的にはなんなのでしょうか。

それは、精子のDNAが正常かどうか、すなわち、DNAの損傷度で、損傷度が低いほど質のよい精子ということになります。

受精とは、卵子と精子のDNAが融合すること、すなわち、母親の遺伝情報と父親の遺伝情報がシャッフルし、1つになり、受精卵(胎児)のDNAになることです。

そのため、精子のDNAが壊れていると、受精しなかったり、受精しても胚発育が止まったりします。

特に、胚発育の後半に精子側のDNAが関与していることから、精子のDNAが壊れていると胚盤胞まで到達しにくくなります。

一方、卵子には、受精後に精子のDNAの損傷を修復する機能が備わっています。

そのため、精子DNAに多少の損傷があっても、卵子の修復機能が正常に働ければ、問題なく、妊娠、出産のプロセスが進むというさけです。

ところが、卵子の精子DNA損傷の修復能力は年齢とともに低下することも知られています。特に、女性の年齢が30代後半、40代になると、顕著になります。

このように、よい胚を得るには、卵子だけでなく、精子の質も重要であること、特に、女性が30代以降になると切実な問題になるということです。

さて、精子の質を評価する検査が、精子DNA断片化指数検査(精子DFI検査)で、精液中に精子が損傷した精子の割合がわかります。

もしも、精子DFI検査の結果が不良であった場合、精子の質を改善することで妊娠、出産に近づけるかもしれません。

卵子と違い、精子は、毎日、何千万、何億と、つくられていますので、改善が可能です。

精子のDNAを損傷させる原因はいくつかありますが、主には酸化ストレスです。要するに活性酸素のダメージによって精子のDNAに損傷を引き起こしてしまうというわけです。

そのため、精子DNAの損傷度が高いということは、なんらかの理由で活性酸素が過剰に発生しているか、もしくは、抗酸化力が低下しているか、そのどちらも起こっていることが考えられます。

具体的な対策は生活習慣の改善が基本になります。

精子DNA損傷度を高めることが知られているのは、喫煙、飲酒、肥満、不規則な生活リズムや睡眠不足、サウナや長風呂、長時間のデスクワーク(座位)、食生活の乱れ、強いストレス、長い禁欲期間(射精の頻度が少ない)などです。

また、その上で抗酸化サプリメントを摂取することで改善効果が高まります。具体的には還元型コエンザイムQ10を1日に200mg補充するのが、有効性についての研究報告が最も多くなされています。