編集長コラム

細川 忠宏

なんでも摂ればいいというわけではない

2023年07月02日

サプリメントは、法的には「食品」であり、使用に際しては医薬品のように医師や薬剤師が管理しているわけではなく、「自己責任」のもとに、すなわち、自分の責任において使用するということになっています。

要するに、医薬品は医師の責任のもとに飲むもので、サプリメントは自分の責任のもとで選び、使用するものです。

そのためには、正しい知識のもとに、正しく使う必要が、サプリメントにはあります。

誤った知識のもとで間違った使い方をすると、よかれと思って飲んだにもかかわらず、よくないことが起こってしまうことがあるからです。

たとえば、イソフラボン。

妊活サプリと称して販売されているサプリメントに「イソフラボン」が配合されていることがよくあります。

イソフラボンは植物性エストロゲンと言われていて、本物に比べれば作用は弱いものの、女性ホルモンに似た働きがあります。

エストロゲンとか、女性ホルモンであれば、妊娠によいだろうと考えているのかどうか分かりませんが、もし、そうだとしたら、あまりにも短絡的な考えだと言わざるを得ません。

ダイゼインやゲニステインといった植物性エストロゲンは、子宮内膜の脱落膜化にマイナスの影響を及ぼす、つまり、胚の着床の障害になるかもしれないというスペインの研究報告があります。

そもそも、植物性エストロゲンが、本物のエストロゲンのような作用があるのは、エストロゲンと化学的な構造が似ていることから受容体に結合するためです。

そのため、プラスに働くか、マイナスに働くかは、さまざまな要因に左右されることになり、予測がつきにくいところがあります。

実際、アメリカ産婦人科学会は、植物性エストロゲンを含むサプリメントについて、かえって、女性にとってマイナスに作用することがあるという公式の見解を示しています。

要するに、妊娠希望の女性にとってイソフラボンなどの植物性エストロゲンが含まれるサプリメントは避けるのが無難なわけです。

また、たとえば、鉄。

サプリメントで鉄を摂り過ぎると、胞状卵胞数の減少やFSH値の上昇を招く、すなわち、卵巣予備能が低下する可能性があるという、ハーバード大学による最新の研究結果が発表されています。

卵巣予備能とは卵巣に残っている卵子数(卵巣年齢)の目安とされていますので、サプリメントによる鉄の過剰摂取が卵巣の老化を進めてしまうかもしれないという、ある意味、ショッキングな研究結果です。

鉄と言えば、妊娠や出産に重要な必須ミネラルの1つです。血液細胞である赤血球の部品として、全身に酸素を運ぶことに関わっているので、妊娠すると妊婦でも、胎児でも、血液量が増加します。

そのため、妊娠後は鉄の必要量が跳ね上がることになるため、妊娠前から、鉄が不足しないように十分に摂取するように心がける必要があることはよく知られています。

そんな、大切なミネラルなのですが、摂り過ぎると妊娠に不利になってしまいかねないというわけです。

もちろん、今回の研究は観察研究であり、明らかになったのは、あくまで相関関係であり、因果関係が確かめられたわけではありませんが、そもそも、鉄は必要以上に摂取すると、活性酸素の大量発生を招き、細胞やDNAに障害になることもまたよく知られています。

そういう意味では、今回の研究結果は、ショッキングではありますが、十分に起こり得ることであり、必須栄養素と言えども、少な過ぎても、多過ぎてもよくない、つまりは、「過ぎたるは及ばざるが如し」ということです。

くれぐれも誤解しないでいただきたいのは、あくまで、サプリメントでイソフラボンを摂取した場合であり、また、鉄が不足ていないにもかかわらず、サプリメントで鉄を過剰に摂取した場合であって、大豆や豆腐など、大豆食品として食べたり、鉄が豊富な野菜を食べたりするのは、全く問題ないどころか、栄養学的な観点からは、積極的に食べるべきです。

要するに、サプリメントの選び方や使い方の問題なのです。

サプリメントと言えども、なんのために摂取するのか、目的を出来るだけ意識することが大切です。

必須栄養素であるにもかかわらず不足しているから、もしくは、不足を予防するため、あるいは、卵の成育や質の維持、着床に障害になるようなリスクファクターが存在し、その対策として、などです。

そのことを裏付ける研究報告やデータを確かめておくことも大切です。

ところが、なんとなくよさそうととか、体験談があるからとか、専門家や著名人が推薦しているからというのは理由にはなり得ません。

また、過度な不安や心配は、不要なことやものに手を出し、不要なコストをかけさせるようになりがちです。

適度な不安や心配は、適切な対策を講じ、必要なコストをかけるための必要条件なのかもしれません。

 "出来ることはやっておきたい"という、前向きな姿勢は、物事を進めるエンジンになりますが、もしも、進む方向が間違ってしまうと、取り返しがつかないことになってしまわないとも限りません。