編集長コラム

細川 忠宏

体質の違いで必須栄養素が不足しやすくなることがある

2023年10月01日

私たちは、普段から、さまざまなことを体質のせいにしています。

たとえば、太りやすい体質とか、冷えやすい体質、お酒に強い体質とかいうようにです。

これは、同じように食べていても、太る人もいれば太らない人もいるし、同じように生活していても、冷える人もいれば、冷えない人もいるし、同じ量のお酒を飲んでいても、酔っ払う人もいれば、平気な人もいるということでしょう。

この体質の違いはどこからくるのでしょうか?

その根本は遺伝子のタイプの違いによるものと考えられていて、遺伝子多型と呼ばれています。

ただし、遺伝子の違いと言っても、その影響は致命的ではなく、すなわち、病気にまではならないけれども、遺伝子上のわずかな個人差で、その違いが体質になってあらわれるというものです。

たとえば、お酒に強いか、弱いかは、飲んだアルコールを肝臓で分解するための酵素をつくるよう指令を出す遺伝子のタイプの違いによって決まります。この酵素の活性が弱い遺伝子タイプをもつ人は日本人の約44%いることがわかっています。一方、ヨーロッパ系やアフリカ系にはこの遺伝子タイプをもつ人が全くいないそうです。

さて、この遺伝子多型が、妊娠や出産に際して重要な栄養素の不足しやすさに影響することがわかっています。

それは、葉酸とオメガ3脂肪酸の一つであるDHAです。

まず、葉酸は、水溶性ビタミンであるビタミンB群の仲間で、細胞の分裂、増殖の際にDNAが正常にコピーされるのに必須で、不足すると悪玉アミノ酸のホモシステインの濃度が上昇し、胚の発育障害や早産、流産のリスクが上昇することが知られています。

葉酸が作用するのは、葉酸そのものが利用されるわけではなく、葉酸が代謝(変換)されるプロセスがスムーズに進むことで、ホモシステインがスムーズに代謝され、そこからDNAになる材料が提供されるようになります。

ところが、葉酸が代謝される過程にある代謝酵素に3タイプ(CC型、CT型、TT型)の遺伝子多型があり、健常のCC型に比べて、CT型は酵素活性が35%低下、TT型が70%も低下することがわかっています。そして、CT型は日本人女性の約50%に、TT型は約30%に存在することが研究で確かめられています。

要するに、日本人女性の約80%に程度の違いはありますが、葉酸をうまく利用できない、つまり、葉酸が不足しやすい体質の人がいるというわけです。

ただし、安心ください。

そのような体質の人でも、葉酸サプリメントを1日400μg以上摂取すれば、約1ヶ月で、体内の葉酸は健常のCC型と同じレベルに達することも研究で確かめられています。

葉酸は妊娠前から必要とされる量が跳ね上がります。

CT型やTT型の遺伝子タイプの女性は、食事から十分な葉酸を摂取しても不足する可能性が高くなりますが、葉酸サプリメントで補充することで、妊娠、出産に際しての不足は回避できます。

一方、DHAは、必須脂肪酸の1つで、オメガ3脂肪酸に属します。必須脂肪酸とは体内でつくることができないので、食事から摂取しなければならない脂肪酸のことです。

DHAは、特に脳の主要構成成分として、知能を担うことから、不足すると知能発達遅延のリスクが高くなります。

そのため、妊娠、出産の際には胎児の脳の正常な発育に必須の栄養素です。

このDHAの供給源は2つあって、植物と魚です。

植物は、αリノレン酸を豊富に含む亜麻仁油やシソ油、なたね油、大豆油から摂取したαリノレン酸を脂肪酸不飽和酵素などを介してEPA、そして、DHAがつくられます。

また、魚介類からは、直接、DHAを摂取することが出来ます。

そんな中で、αリノレン酸からDHAに変換される酵素に遺伝子多型があり、CC型やCT型は、TT型に比べて酵素活性が低く、DHAがうまくつくることが出来ません。TT型は日本人妊婦の約35%、TC型が約50%、CC型が約15%に存在することが研究で確かめれていますので、日本人女性の約65%はαリノレン酸からDHAがうまくつくれないということになります。

ただ、DHAの主な供給源は魚で、1日に100g以上の魚を食べていれば、DHAが不足することはないと考えられています。

ところが、この10年で魚介類の摂取量が1日100gから64gに激減しています。

問題は魚をあまり食べなくなり、魚からのDHAの摂取量も少なくなっているということです。

そのため、遺伝子多型をもつ女性ではなおさらのこと、DHAが不足している可能性が高くなっています。

実際に、出産後6-7ヶ月の授乳婦300人の母乳のDHA濃度を調べた研究では平成元年の1%に比べ、令和3年には0.54%と半減していました。

妊娠、出産に際して、葉酸サプリメント補充の必要性は広まっていますが、魚食の重要性は、まだまだ、知られていないように思います。

妊娠を望まれる女性は、1日100g以上の魚を食べましょう。もちろん、DHA、EPAのサプリメント補充という選択肢もあります。