曇り時々雨、のち晴れますように

小倉 智子

不妊の心理の3要素

2018年10月12日

こんにちは。

秋になりましたね。
日本には4つ季節があるので、
それぞれを楽しめることもできますし、
日付以外にも去年の秋から1年たったんだなあ、
と思う機会がありますね。
その分、季節の変わり目で体調管理が難しいのですが・・・。

さて先週末は毎年この時期に定期的に行っている講義をしてきました。
私の担当はカウンセリング事例。
これから生殖心理カウンセラーとして活動される受講生に、
実際にどのようなカウンセリングが行われているのかを講義するので、
こんな相談があって、
こんな風にカウンセリングしてます、
という内容ですが、
ただ紹介しても勉強にならないので、
改めて不妊の心理について説明したり、
カウンセリングに答えがあるわけではないので、
受講生の皆さんならどのようにカウンセリングしますか、
など、
実習に近い内容です。

それで、
以前も書きましたが、
改めて不妊特有の心理の3要素をお伝えしようと思いまして。

教科書に書いてあるわけではありませんが、
私が学んだ中で、この3つが核としてあるのでは?
と思っているものです。

・生殖物語
・不妊による喪失
・不妊によるトラウマ

・生殖物語
生殖物語は、自分が小さいころから(3歳ごろから!)思い描いている家族のイメージ。
結婚して、子供を産んで、おばあちゃんになって・・・というのがよくありますが、
子供とお菓子作りたい、とか、キャンプに行ってみたい、とかも含まれます。
逆に、自分は子供はいらないし、結婚もしない、というのも、生殖物語になるし、
年配の方が、孫ができたらセーターを編んであげたい、というのも、
生殖物語になります。

でも、不妊を経験して、
それがかなわないかも、となると、
この生殖物語は「書き換え」を必要とします。
例えば、本当は子供が欲しかったけど、
これからは夫婦二人家族でそれぞれの仕事にうちこみつつ、週末を同じ趣味で楽しむ、
って、書き換える、のですが、はい、では今日からそうしましょうって、できませんよね?

それはとてもとてもつらいことです。
皆、不妊を経験すると、「辛い」と思うのですが、
なんでこんなにつらいの?
と思うのですが、
その理由の一つが、
3歳ごろから長い間、思い描いていた自分のストーリー(物語)を
急に書き換えないといけないから、
なのです。

・喪失
これも上記の思い描いていた生殖物語を失うことから始まり、
毎月の生理でくるかもしれなかった赤ちゃんを失うことも、
健康だと思っていたからだのイメージを失うことも、
父親、母親になれなかったことも、
治療で経済的に貯金を失うことも含まれます。

こんなにたくさん、失えばそれは辛いに決まっています。
だから、こんなに失っているんだ、だから悲しんでいいんだって思うことが大事です。

・トラウマ
上記の生殖物語の書き換え、たくさんの、しかも繰り返される喪失により、
心は傷つきまくっています。
その傷は毎月の体の周期があると、
次を期待して、なかなかゆっくり癒す間もなく、
置き去りにされがち。
でも、気づくと心はもう破裂寸前、あるいは干からびる寸前。
友人に会うのが嫌になったり、
妊婦を見るのが嫌になったり。
知らないうちに涙がでていたり・・・
そういう時はトラウマ(心的外傷)に苦しんでいるのかもしれません。

こういうときも、
ああ、私、元気そうにふるまってるけど、
実は傷ついてるんだな、
だから、嫌なものからは距離を置いていいんだな、
泣いてもいいんだな、
と喪失と似ていますが、
傷ついている自分を受け入れるのが一番回復に効果的です。

今回は難しい内容となったかもしれませんが、
頭でわかっていても、
気持ちはそうすぐに整理されたり、理解できるわけではないので、
それでいいんです。

なんとなく、ああ、そうなのかな、そうかもね、いや、ちがうかなあ~
というふうに、
感じるだけで十分だと思います。