ドクターにインタビュー

vol.13

【1】科学的な根拠に基づいた医療 ~最新のエビデンスにもとづいて

春木 篤  先生(春木レディースクリニック院長)

春木 篤 

【1】科学的な根拠に基づいた医療 ~最新のエビデンスにもとづいて

細川)
春木レディースクリニックの目指す、「エビデンス(evidence;根拠)にはじまり、ナラティブ(narrative;対話)におわる医療」について、院長の春木先生にお話しをお伺いしたいと思います。まずは、"エビデンス"とは、エビデンスベイスドメディスン(EBM)のエビデンスで、"ナラティブ"とは、ナラティブベイスドメディスン(NBM)のナラティブのことですね。
Dr.)
そうです。まず、私はクリニックの理念として、「EBM にはじまり、NBMにおわる医療」を掲げています。医療では、当然、患者さんに最も有効と考えられる治療を施すべきなのですが、これがEBMであり、NBMというのは、「対話、物語」という意味で、最終的な治療方針は、ご夫婦との対話によって、決めていくという手法を指します。
細川)
不妊治療では有効な治療が受けられるかどうかで、どれだけ妊娠に近づけるかが決まるわけですからとても大切なことですね。
Dr.)
そうです。順番に説明しましょう。まずは、EBMとはエビデンスベイスドメディスンのことで、エビデンスとは「科学的根拠」のことです。ですから、EBMとは、科学的根拠に基づく医療ということになります。
細川)
科学的根拠(以下、エビデンス)に基づく医療。
Dr.)
そうです。エビデンスというのは、主に臨床試験によって得られた医学的統計データのことです。信頼度の高いエビデンスとされているのはランダム化比較試験によるデータで、対象となる患者さんをランダムに2つのグループに分け、一方にはAという治療を、もう一方にはBという治療を、それぞれ行い、その結果(治療成績)を比較します。ランダムに取り出していますから、患者背景は同じはずですから、その結果が統計学的によかったほうの治療がより有効な治療であると考え、そちらを採用しましょうというのがEBMです。
細川)
過去の臨床データの蓄積を頼りにした医療ということですね。
Dr.)
たとえば、体外受精の(新鮮)胚盤胞移植(※)の場合、受精後5日で胚盤胞に到達することもあれば、6日かかることもあるのですが、5日目に戻す場合と6日目に戻す場合では、妊娠率が大きく違ってきます。5日目に戻せば40~50%の妊娠率が得られるのに6日目であれば、いくら良好な胚盤胞でも妊娠率は数%程度に落ちてしまうのです。子宮内膜の着床環境は刻々と変化しているからです(※)。そのため、胚盤胞に到達するのに6日かかった場合には、そのまま移植せずに、いったん凍結して、次周期以降、着床環境のよいタイミングで移植します。
細川)
エビデンスに基づいた胚移植を行わなければ、せっかくの妊娠のチャンスが大きく損なわれることになるわけですね。
Dr.)
そうなのです。ですから、我々は、常にエビデンスをアップデートし、最新、かつ、最良のエビデンスに基づいた治療を提供しなければならないのです。
細川)
はい。
Dr.)
ただ、EBMも万能ではないのです。

※(新鮮)胚盤胞移植とは?:  体外受精では一般的には受精後2~3日目に受精卵が分割胚になった状態で子宮に戻しますが、受精後5日目まで培養し、胚盤胞に到達した胚を子宮に戻すこと。胚盤胞まで成長しているため、胚移植あたりの妊娠率は高くなります。新鮮というのは、「採卵後に発育させた胚を凍結することなく、そのまま胚移植する」という意味です。

 ※胚盤胞への到達スピードによる質の違いについて: 5日目胚盤胞と6日目胚盤胞を凍結胚移植で戻した場合、妊娠率は変わらないとされています。

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