ドクターにインタビュー

vol.13

【2】対話にもとづく医療 ~ 目の前の患者さんにとってどうなのか?

春木 篤  先生(春木レディースクリニック院長)

春木 篤 

【2】対話にもとづく医療 ~ 目の前の患者さんにとってどうなのか?

細川)
EBMは現在の標準的な医療ではあるけれど、決して、万能ではないと。
Dr.)
そうです。エビデンスというのは、あくまで、過去の統計データです。そこからは一般的な傾向はわかりますが、目の前の患者さんにとっての正解であるかどうかまでは教えてくれません。残念ながら、EBMとは誰にでもあてはまる一般的な正解を提供するものではないのですよ。
細川)
なるほど。
Dr.)
エビデンス通りの治療さえ提供していれば、全ての患者さんが幸せになるとは限らないということです。もしそうなるのであれば、誰も苦労しませんよね(笑)。
細川)
そうですね。
Dr.)
たとえば、健康診断で血圧が高かったとしましょう。エビデンスでは5年間降圧剤のお薬を飲み続けた人たちは、飲まなかった人たちに比べると、脳卒中になる確率が30%下がるとあります。だからお薬を飲みましょうということになるのですが、お薬を飲まなかったら、100人中3人が脳卒中を発症したのが、お薬を飲むことによって1人になったわけです。つまり、お薬を飲んでも1%の人は脳卒中が発症し、お薬を飲まなくても97%の人は発症しないわけです。このような説明を聞くとどうでしょうか?
細川)
ずいぶん、印象が変わります。副作用の心配もあるでしょうから、それだったら、薬を飲みたくないという人も少なくないかもしれませんね。お薬は飲まずに、生活習慣を頑張って見直したいと思う人もいるかもしれません。
Dr.)
そうですね。そんなことを患者さんと話し合うことになるでしょう。生活習慣だけでなく、ご自身やご家族のこれまでの病歴なんかも判断材料としては大切です。私は、その結果、ご本人がどちらを選択されても、それぞれに意味のあることだと思っています。ここで必要なのが、narrative(対話)なのです。
細川)
なるほど。
Dr.)
エビデンスに基づく医療をきちんと実践しようとすると、対話が大切だということですね。
細川)
そして、その結果、目の前の患者さんにとって最良の治療を提供することにつながるということですね。
Dr.)
そうです。EBMはとても重要ですが、スタディを行う以上、「対象となる患者様」が一般化されている点で限界があります。じつは、多くの人がこの限定された「対象となる患者様」には、なりえないのです。そこを埋めるのが、NBM(narrative based medicine)であり、そういう意味からも、NBMは"究極のEBM"と言えるのです。

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