ドクターにインタビュー
vol.18
不妊治療の終結について考える
杉本公平 先生(東京慈恵会医科大学産婦人科講師)
【3】 不妊治療の終結について考える
- 細川)
- 杉本先生は、不妊治療の終結のサポートにも力を注いでいらっしゃいます。
- Dr.)
- はい。大学病院という性格上、必然的に高齢の患者さんや子宮内膜症などのある難治性の不妊患者さんが多く、当然、治療成績も低く、治療期間も長くなってしまわざるを得ません。そのような状況で、不妊治療の終結点を見出せず苦しんでいる40歳以上の患者さんが大勢いらっしゃいます。
- 細川)
- はい。
- Dr.)
- 生殖医療の目覚ましい発展にもかかわらず、40歳以上の高齢不妊患者さんの治療成績を劇的に向上させる手だては見当たりません。そのため、不妊治療終結に際しての適切なサポートの重要性がますます高まっています。2009年に治療終結についてアンケート調査を行いましたが、治療終結を決める因子として最も多かったのは「年齢」でした。
- 細川)
- ○○歳までは頑張って続けようということですね。
- Dr.)
- そうです。そして、その場合、何歳なのかを聞いてみると、大変興味深いことに、40歳未満の方は、40歳を治療の終結とする傾向があるのですが、40歳以上になると半数以上が無回答でした。つまり、治療の終結を見出せなくなっている方が多いのではないかと考えられるわけです。長い治療による疲れが、治療終結について考える気力も奪ってしまっているのでしょうか。
- 細川)
- いろいろなことを考えさせられるデータです。
- Dr.)
- そうですね。また、2011年の調査では、「治療の限界点についての情報」1)を提供しても、治療終結年齢や治療回数は変化しないことがわかりました。
- 細川)
- それは意外な気がします。要するに、治療終結の年齢や治療回数を考える上で、妊娠、出産の最高齢、その患者さんの治療回数などには影響されないということでしょうか。
- Dr.)
- 治療終結を考えるうえで、「治療の限界点に関する内容」1) の情報提供は我々医療者が思うほど意義は多くないと考えられますね。
- 細川)
- はい。
- Dr.)
- ただ、情報提供のタイミングとしては、不妊治療開始前、体外受精や顕微授精開始前を答えた方が多く、あらかじめ情報提供を受けておきたいという患者さんの考えが反映されているものと考えられます。
- 細川)
- そうですね。
- Dr.)
- そして、不妊治療の終結についてカウンセリングを行う相手として適切なのは医師と答えた方が80%に上っていました。
- 細川)
- 治療の終結については、不妊カウンセラーではなく、ドクターに相談したいということですね。これはわかるような気がします。
- Dr.)
- ただ、現実には日常の診療の中では治療終結についてのカウンセリングを行う時間的な余裕はありません。
- 細川)
- はい。
- Dr.)
- その一方で、この問題に取り組む上で参考になるコメントがいくつか得られました。たとえば、「メンタルケアがあれば治療終結も自然に出てくる」というものです。
- 細川)
- 情報提供よりもメンタルなケアが必要かもしれないということですね。
- Dr.)
- そうです。治療終結を決定する上で、精神的に支えられていること、適切な精神的なサポートを受けていることが重要なのかもしれません。
- 細川)
- はい。
- Dr.)
- そして、私のこれまでの経験ですが、特別な心理カウンセリングというよりも、日常の診療の中で、たとえば、注射のときなどのささいな気遣いや言葉がけ、治療内容についての再確認などのようなささやかなケアが患者さんからは高く評価されました。長い時間を割いてカウンセリングを行わなくても、日常診療で適切なケアを積み重ねて患者さんを精神的に支援していくことは治療終結にお役に立てるのかもしれないですね。
- 細川)
- とても勉強になります。
- Dr.)
- また、「治療終結は医師におかませする」というものもありました。これはインフォームドコンセント2)という観点からは認められないかもしれません。ただし、スプリチュアルケアという観点からは「委ねる」ことも自律した決定の一つとしてとらえられています。治療終結ということを考えていく上で、さまざまな視点から患者さんのケアを考えていかなければならないと考えています。
■ 脚注
1)治療の限界点に関する内容
① 年齢
出産された患者さんでは治療時点で「44歳」が最高齢でした。
妊娠された患者さんでは治療時点で「44歳」が最高齢でした。
② 治療回数
出産された患者さんでは「8周期目」の治療で初めて妊娠された方が最も遅い妊娠でした。
妊娠された患者さんでは「9周期目」の治療で初めて妊娠された方が最も遅い妊娠でした。ただし、この方は流産されました。
③ 卵巣機能
ここでは月経3日目頃の血液中の FSH 値を指標としています。FSH が高いほど卵巣機能が悪いとされています。
出産された患者さんでは 17.6(IU/L)が最も高値でした。
妊娠された患者さんでが 22.2(IU/L)が最も高値でした。
2)インフォームドコンセント
医師から十分な説明を受けたうえで患者自身が最終的な診療方法を選択すること。
ドクターに訊く
ドクターにインタビュー
- 第25回 精索静脈瘤と男性不妊 〜精子の質を高めてパートナーの治療成績の改善を図る
- 第24回 子宮内膜症と不妊治療
- 第23回 納得のいく選択や決断のための“情報共有”について考える
- 第22回 老化促進物質AGEをターゲットにした不妊治療
- 第21回 不育症を正しく理解する~不妊症と不育症はひと続き
- 第20回 栄養と妊娠力
- 第19回 40代の不妊治療について考える
- 第18回 不妊治療の終結について考える
- 第17回 栄養と生殖機能の関連研究の第一人者に聞く
- 第15回 オーダーメイドの不妊治療とは?~あるべき不妊治療を考える
- 第14回 30代後半、40代からの不妊治療
- 第13回 不妊治療には、なぜ、“対話と物語”が大切なのか?
- 第12回 妊娠前からの食生活が子どもの一生の体質をつくる
- 第11回 妊娠しやすい思考ってあるのでしょうか?
- 第10回 クラミジア感染症と不妊 ~検査と治療についての正しい知識
- 第09回 ストレスフリーの不妊治療を目指して
- 第08回 体が本来持っている妊娠する力を取り戻す
- 第07回 酸化ストレスと男性不妊
- 第06回 質のよい卵を育むための生活習慣
- 第05回 不妊治療でなかなかよい結果が得られないとき
- 第04回 体外受精の後悔しない病院選びについて
- 第03回 ちゃんと知っておきたい薬のこと
- 第02回 妊娠しやすい夫婦生活とは?
- 第01回 不妊予防という考え方