ドクターにインタビュー
vol.18
不妊治療の終結について考える
杉本公平 先生(東京慈恵会医科大学産婦人科講師)
【4】 不妊治療の終結に悩んでいる方へのメッセージとして
- 細川)
- 最後に、現在、不妊治療の終結に悩んでいて、なかなか決められないという方々へのメッセージをいただきたいのですが。
- Dr.)
- はい。まずは、体外受精を繰り返しても妊娠に至れない方は大勢いらっしゃいます。最初にもお話ししましたが、妊娠できないことと人間(女性として)の価値とは全く関係ないということを忘れないでください。
- 細川)
- 妊娠できないことと人間の価値とは全く関係ないと。
- Dr.)
- はい。また、たとえ、高齢で妊娠の確率が低くても、お子さんを望むことは悪いことでもなんでもありません。そんな善悪の問題ではありません。そして、そのために辛い治療を耐えて頑張ってきたことはとても立派なことだと思いますし、そんな自分を誉めてあげて欲しいとも思います。
- 細川)
- はい。
- Dr.)
- 以前、54歳で他のクリニックからの紹介でこられた患者さんがいらっしゃいました。既に閉経されていましたが不妊治療を強く希望されました。2回目の診療の時に、「私のやっていることって、バカが騒いでいるように見えるでしょ?」と、少々、自虐的におっしゃったのです。私は、思わず、気色ばんで「バカが騒いだっていいじゃないですか!」と言い放ってしまったのですね。私自身自分のように医師でありながら不妊カウンセリングを行っていることがまさに「バカが騒いでいる」ように思えていたので、そのことも伝えました。
- 細川)
- ええ。
- Dr.)
- その患者さんは、その瞬間大泣きされましたが、「ようやく治療をやめる決心ができそうです。」とおっしゃって微笑まれました。そして、その次のカウンセリングで穏やかに治療を終結されました。もしかしたら、私が言い放ったことが、それまでやってこられたことを肯定してもらったと感じていただけて、そのことがきっかけになって、冷静に考えられるようになられたのかもしれません。
- 細川)
- なるほど。
- Dr.)
- 私は、高齢の患者さんには治療成績を提示して、「もしも、私があなただったら治療をやめると思いますが、あなたが続けたいとおっしゃるのであれば、私は全力で治療しますし、どこまでもおつきあいします。そして、治療を終結した後、気が変わって治療を受けたくなったら、いつでもお越しください。」とお話ししています。
- 細川)
- 決して、見放さないということですね。
- Dr.)
- それが最大のケアだと思っていますから。
- 細川)
- ええ。
- Dr.)
- それによって、はじめて自分を冷静にみつめられるようになる患者さんも少なくないのです。
- 細川)
- そうなのですね。
- Dr.)
- そして、たとえ、お子さんを授かることが出来なかったとしても、それまでの治療は決して無駄ではなかったということ。
- 細川)
- それまでの治療は無駄ではなかったと。
- Dr.)
- これも実際の患者さんのお話ですが、受精障害の患者さんがいらっしゃいまして、以前いた病院で顕微授精の機器が導入されたばかりのことでした。その患者さんは「私の卵をその実験台に使ってください」と申し出られたのですね。もちろん、そんなことは出来ません。その患者さんは、「私はそろそろ自分が妊娠できないって気がついてます。でも、実験台になることで私の後の方が救われるようになることに少しでも貢献できれば、嬉しいです。私が今、努力して通っているのは、全力を尽くしたと思って納得して治療を終結しないと、将来前向きに人生を歩めないと思うからです。」とおっしゃいました。
- 細川)
- ご自身の納得のためだと。
- Dr.)
- そうです。このことは、結局、お子さんを授かることが出来ずに不妊治療を終結せざるを得なかった全ての患者さんに言えることなのですが、皆さんの治療結果は、必ず、日本の生殖医療の発展に寄与することになるのです。今や、日本は世界一の体外受精大国になりましたが、それは、辛い治療に立ち向かう患者さんたちの真摯な姿勢が医療者を突き動かしてきた結果であると私は信じています。
- 細川)
- 患者さんたちの真摯な姿勢が医療者を突き動かしてきた結果、多くのカップルが大きな恩恵を受けることが出来る治療環境が整ったというわけですね。
- Dr.)
- その通りです。結果が伴わないと無駄であるなんてことは全くありません。この間のソチオリンピックで浅田真央さんは結果を出す(メダルを獲得する)ことが出来ませんでした。でも、浅田真央さんの演技が無駄だったなんて誰も思っていないのではないでしょうか。少なくとも私は大きな感動をいただきました。金メダルを獲られてもあれほどの感動はなかったと思います。
- 細川)
- よくわかりました。治療の終結のための誰にでもあてはまる指標はないということですね。
- Dr.)
- そうなのです。ですから、私も自分の行っているケアが100点満点と思わないし、私の方法が合わない方もいることを理解しています。だからと言って100点になるまで何もしないというのは正しくないと思います。100点の自信がなくても、治療終結という患者さんの辛い意思決定から逃げずによりそっていくこと。そこまで付き合う覚悟を持って医師が診療することが、患者さんを治療終結の苦しみから少しでも救うことができる方法であると考えております。
- 細川)
- よくわかりました。ありがとうございます。治療終結を決められずに悩み、苦しんでいる患者さんにとって必要なのは医学的な情報よりも、精神的なケアであること、そして、どのようにケアをすればいいのかについてもマニュアルなど存在せず、大切なのは患者さんへの思いやるお気持ちだということがよくわかりました。私たちにとってもとても貴重な機会を設けていただいたと思っています。
本当にありがとうございました。
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ドクターにインタビュー
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