ドクターにインタビュー
vol.20
[2]日本の女性のやせ傾向や栄養不足が浮き彫りに
佐藤雄一 先生(産科婦人科舘出張佐藤病院院長)
[2]日本の女性のやせ傾向や栄養不足が浮き彫りに
- 細川)
- それでは、卵巣年齢プロジェクトで明らかになったことについて教えてください。
- Dr.)
- まず、特筆すべきことはエネルギーの摂取量が少ないことです。1日の平均量が1,500kcalでした。厚労省のガイドラインでは30〜49歳の女性のふつうの身体活動レベルでの推定エネルギー必要量が2,000kcalとされていますので、それを大きく下回っています。
- 細川)
- ちゃんと食べていないと。
- Dr.)
- そうです。そして、エネルギー収支バランスの目安となるBMIも平均が20.3でした。
- 細川)
- BMI18.5未満が「やせ」で、妊娠、出産時に適切な範囲は20〜24とされていまから、全体にやせている方が多いということですね。
- Dr.)
- はい。今回の調査ではBMIが20未満が半数近く、18.5未満が約23%でしたので、いかにやせている方が多いかがわかります。
- 細川)
- 日本の若い女性は「やせ」が問題なのですね。欧米では肥満が大きな問題になっているのとは反対です。
- Dr.)
- その一方で、平均の体脂肪率は25.7%でした。BMIは低いのにもかかわらず、体脂肪率がやや高めなのです。
- 細川)
- そうですね。
- Dr.)
- これは、若い女性のやせ願望による食べないダイエットでやせようとして筋肉も落ちてしまっているのではないかと思います。
- 細川)
- そうすると基礎代謝が低下して、皮肉にも余計にやせにくくなりますね。
- Dr.)
- 全く間違ったダイエットです。「やせ」は妊娠しにくくなります。また、やせた状態で妊娠すると、早産や低出生体重児(1を出産するリスクが高くなります。そして、それだけでなく、出生児が成人後に生活習慣病にかかりやすくなるリスクまで高くなることが知られています。
- 細川)
- 生活習慣病胎児期発症説(2ですね。
- Dr.)
- そのため、イギリスではやせている女性を広告に使っちゃいけないという規制まであるのです。若い女性が将来健康な赤ちゃんを産むために、まずは、やせている女性が格好いいのだというイメージを払拭することから始めているわけです。
- 細川)
- 日本では新生児の約1割が低出生体重児といわれていますから、次世代の健康という面ではより深刻ですね。
- Dr.)
- 全くその通りです。また、食事内容の調査からは栄養不足であることが浮き彫りになりました。
- 細川)
- 飽食と言われている今の日本では想像しづらいことですが・・・。
- Dr.)
- たとえば、からだを構成する主な成分であるだけでなく、ホルモンや酵素、免疫抗体、神経伝達物質の原材料になる大切なたんぱく質ですが、40%近くの方で摂取量が足りていませんでした。
- 細川)
- 40%の女性が低たんぱくだと。
- Dr.)
- そうです。食品でみても、肉、魚、卵、大豆食品などの主要なたんぱく源すべてが不足しています。さらに、緑黄色野菜や果物、海藻などのビタミンミネラル源も十分な量が食べられていません。
- 細川)
- 加工食品が多いということでしょうか。
- Dr.)
- そうですね。食事内容の調査はBDHQ以外に写真解析も実施しました。食べたものを3日分撮影して送ってもらいました。加工食品や外食も多く、バランスよく食べている女性は稀で、食事バランスをいくつかの項目にわけて3点満点で評価したところ、平均が1点に満たないような項目が非常に多かったです。
■用語解説
1)低出生体重児:出生時に体重が2,500g未満の新生児のこと。
2)生活習慣病胎児期発症説:ダイエットなどで栄養不足のまま妊娠したり、食生活の乱れなどで妊娠中に十分な栄養を摂っていなかったりすると、胎児の胎内での発育に影響を及ぼすだけでなく、遺伝子の働きを調節するメカニズムが変化して、子が生活習慣病にかかりやすくなる体質になること。
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