ドクターにインタビュー

vol.20

[4]ビタミンDと生殖機能の関係

佐藤雄一 先生(産科婦人科舘出張佐藤病院院長)

佐藤雄一

[4]ビタミンDと生殖機能の関係

細川)
それでは、ビタミンDと生殖機能はどのように関連するのか、卵巣年齢プロジェクトでわかったことを教えてください。
Dr.)
まず、AMHが高い人(2.2ng/ml以上)と低い人(2.2mg/ml未満)に分け、年齢からみてみると、やはり、30歳未満よりも30歳以上の女性のほうがAMH低値の人が多いことがわかりました。
細川)
はい。
Dr.)
そして、AMH低値の人の割合はビタミンD欠乏の人の間では28.8%もいたのですが、ビタミンDが充足している人では18.5%と、ビタミンD濃度が低い人ほどAMH値も低く、AMH値はビタミンDレベルの影響を受けていることがわかりました。因みに血中25(OH)D3が20ng/ml未満をビタミンD欠乏としました。
細川)
食習慣とAMH値との相関には、やはり、ビタミンDが介在していた可能性が高いということになりますね。
Dr.)
そうですね。また、我々のデータはビタミンDレベルとAMH値が関連するという海外の研究報告とも一致しています。
細川)
それでは、最も気になるところなのですが、ビタミンDが豊富な食品を積極的に食べたり、ビタミンDのサプリメントを服用したりすることでAMHが高くなるのでしょうか?
Dr.)
可能性はあると思います。もちろん、それは原始卵胞数が増えることによるものではありません。AMHは卵巣内の原始卵胞が発育する過程で分泌されるホルモンで、AMHのレベルは発育卵胞数を反映しています。
細川)
そうですね。
Dr.)
AMHが低い女性には2通りあって、本当に卵が少なくなっていて発育卵胞数が少ない人と卵はあるのだけれども正常な発育のメカニズムが止まっているので発育卵胞数が少ない人があるのではないでしょうか。
細川)
なるほど!ビタミンDの欠乏によって卵がうまく発育してこなくなっていると。
Dr.)
実際にビタミンDは卵胞形成に深く関わっていることが基礎的な研究でわかっています。ただ、卵胞発育の障害になっているのはビタミンD欠乏だけではなく、たとえば、その他の栄養素も関与していると考えられます。このあたりのメカニズムは非常に複雑です。
細川)
要は卵胞形成に不可欠な栄養素の不足や欠乏が卵胞発育の障害を引き起こしているのではないかということですね。
Dr.)
実際に生殖医療に栄養療法を積極的に取り入られておられる施設では、AMH低値の患者さんに食生活の改善やビタミンB群や鉄、そして、このビタミンDのサプリメントの補充で発育卵胞数が増え、AMH値が上昇し、治療成績も向上したと報告されています。
細川)
はい。AMHが低く、卵巣機能が低下していると診断された女性にとっても励みになるお話ですね。
Dr.)
卵巣年齢プロジェクトではビタミンD欠乏の女性は27.5%ですが高崎ARTクリニックの不妊患者さんでは87%です。
細川)
驚くべきことに、不妊患者さんはほとんどがビタミンD欠乏なのですね。
Dr.)
そうです。ビタミンDはAMHと相関しているだけでなく、免疫に関わり着床障害や不育症にも影響していることがわかっています。
細川)
ビタミンDは生殖機能のさまざまなメカニズムに関与しているのですね。
Dr.)
ですから、ビタミンD欠乏のために妊娠しづらくなっているということがあるのかもしれません。高崎ARTクリニックでは同意を得られた患者さんにビタミンDを測定し、欠乏の場合にはビタミンDのサプリメントを飲んでもらい、その後の血中濃度や治療成績との関連を調べています。
細川)
これまでの佐藤先生の印象はいかがですか?
Dr.)
ビタミンDのサプリメントを摂取しはじめた患者さんは服用後2〜3ヶ月で妊娠されるケースが多く、手応えを感じています。
細川)
臨床試験の結果が楽しみです。
Dr.)
このようにビタミンDは生殖機能と密接に関連していることがわかりました。
細川)
はい。
Dr.)
ビタミンDは紫外線にあたることで皮膚でコレステロールからつくられため、体内合成と食事がビタミンDの供給源になっています。ところが、現代では女性の間では紫外線を極端に避ける傾向があります。そのため、食事からのビタミンDが豊富な食材の摂取が十分でないと、ビタミンD欠乏を招きます。そして、そのことによって、卵巣機能の低下や着床環境の悪化を招くリスクが高まるというわけです。
細川)
なるほど。食生活やライフスタイルがビタミンDを介して、妊娠する力に影響を及ぼしているというわけですね。そして、食生活の改善やサプリメントによるビタミンDの補充で低下した妊娠力が回復されることが期待できるかもしれないということですね。
Dr.)
そうです。卵巣年齢プロジェクトで得たデータは現在も解析を継続しています。また、高崎ARTクリニックではビタミンDの臨床試験が進行中です。それらは論文として発表していく予定ですが、今後は妊娠前にビタミンDを測定し、低値の方には積極的に補うということが大切になってくると考えています。
細川)
よくわかりました。あらためて、日本人女性を対象に実施された卵巣年齢プロジェクトの意義の大きさが理解できました。

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