ドクターにインタビュー

vol.20

[5]亜鉛不足と甲状腺機能低下症の関係

佐藤雄一 先生(産科婦人科舘出張佐藤病院院長)

佐藤雄一

[5]亜鉛不足と甲状腺機能低下症の関係

細川)
栄養と妊娠力という観点から、ビタミンD以外の栄養素についてはいかがでしょうか?
Dr.)
高崎ARTクリニックの患者さんのほとんどは鉄欠乏です。患者さん全員にフェリチン(貯蔵鉄)を測っていますが、30ng/ml未満の患者さんには鉄剤を処方しています。
細川)
フェリチンの基準値についてはいろいろな意見があるようですが。
Dr.)
そうですね。正常な妊娠にも鉄は重要ですが、妊娠すれば赤ちゃんの分も必要になり、その分が30ng/mlに相当するという研究があります。ですので、貯蔵鉄であるフェリチン値は30〜50ng/ml程度を目安としています。
細川)
はい。
Dr.)
また、不妊患者さんには甲状腺機能低下症の人が多くて、6から7人に1人は甲状腺機能低下症です。潜在性の甲状腺機能低下症の人もいたり、その時に橋本病(1がみつかったりする人もいます。
細川)
そうなのですか。
Dr.)
昔から不妊症や流産との関連が言われていましたが、最近はその基準が厳しくなってきています。たとえば、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の値が通常は正常範囲内とされている2.5ng/mlくらいから流産率が上昇するとの研究報告もあります。
細川)
TSHの基準値(0.4~4.0μIU/ml)内の高いほうでも潜在性の甲状腺機能低下症として影響が認められてきたと。
Dr.)
そうです。そのため、甲状腺機能低下症はこれからの生殖医療における重要なトピックになってくると思います。
細川)
なるほど。
Dr.)
その甲状腺機能低下症の人に亜鉛欠乏の人がいるのです。
細川)
亜鉛欠乏と甲状腺機能低下症が関連していると。
Dr.)
甲状腺機能低下症の多くは橋本病なのですが、橋本病ではないのだけれども亜鉛欠乏のために甲状腺ホルモンが低下しているというケースがあります。
細川)
甲状腺機能低下症の原因の一つに亜鉛欠乏があるということでしょうか。
Dr.)
甲状腺ホルモンがつくられるのに亜鉛が必要なのだと思います。
細川)
なるほど。
Dr.)
味覚障害までは出ないけれども亜鉛欠乏の人は甲状腺ホルモンが少なくなり、甲状腺機能が低下、また、亜鉛は生殖細胞の増殖にも必要で深く関与していますので、その面からも生殖機能が低下してしまうおそれが出てきます。
細川)
亜鉛もみておかなければならないですね。
Dr.)
そうです。ところが、亜鉛の過不足を正確に把握するのは難しいのです。
細川)
はい。
Dr.)
亜鉛は比較的体内で恒常性(2が保たれていて、あまり値が変動しないミネラルなので、欠乏していても数値で把握するのが難しいのですね。
細川)
亜鉛欠乏を見つけ出すのが難しいと。
Dr.)
そうです。ですから甲状腺の専門医を紹介して、場合によっては亜鉛を補充してもらい甲状腺機能を元に戻してもらっています。
細川)
はい。ということは、たとえば、外食などが多くて、普段の食生活でミネラルが十分に摂れていないのではないかと思う方は、亜鉛やマルチビタミンミネラルもサプリメントを服用するのもありだということでしょうか。
Dr.)
いいと思います。亜鉛は補充しておいたほうがいいと思います。
細川)
わかりました。
Dr.)
あと、順天堂大学の産婦人科のチームの研究で、私も関わっていますが、TSHとAMH値が相関しているという論文(3をつい最近出しました。
細川)
はー、とても興味深いですね。
Dr.)
TSHが高めの人はAMHが低いのです。まだ原因ははっきりとはわかりませんが、亜鉛が関与しているのかもしれません。
細川)
なるほど。亜鉛不足により甲状腺ホルモンがうまく分泌されなくなり、TSHが高くなる、その一方で、亜鉛などのベーシックな栄養素が不足することで原始卵胞の正常な発育が妨げられ、AMHも低い値を示すのではないかと。
Dr.)
可能性はあると思います。

■用語解説
1)橋本病:甲状腺機能低下症の代表的な病気。甲状腺を異物とみなして産生された抗体が、甲状腺自体の細胞を破壊していく。甲状腺が破壊されると甲状腺ホルモンの分泌が減り(甲状腺機能が低下した状態)、身体の新陳代謝は停滞し、身体のさまざまな機能が低下した症状が現われる。
2)恒常性:ホメオスタシスとも言われ、体温調節など、環境の変化に対応して,体内の状態を一定に保って生存を維持する現象やその状態。
3)論文:Elevated serum thyroid-stimulating hormone is associated with decreased anti-Müllerian hormone in infertile women of reproductive age. J Assist Reprod Genet. 2015; 32: 243-7.

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