ドクターにインタビュー

vol.21

[1]どこまでが不妊症でどこからが不育症?

松林秀彦 先生(リプロダクションクリニック大阪院長)

松林秀彦

[1]どこまでが不妊症でどこからが不育症?

細川)
不育症と聞くと、どうもわかりづらいという印象があります。たとえば、その定義からして、化学流産は含めないとされていながら、含めるべきだという意見も少なくないようですね。
Dr.)
そうですね。どこまでが不妊症で、どこからが不育症なのか、すなわち、不妊症と不育症の境界という観点で考えてみるとどうでしょうか。下の図1をご覧ください。一週間ごとに赤い線が引かれています。まず、排卵があって、もしくは、採卵ですね。着床があり、そして、妊娠判定、その後、赤ちゃんの袋である胎嚢がみえるようになります。

drmatsubayashi_img1.jpg
図1.不育と不妊の境界は?(1)
細川)
はい。
Dr.)
この流れの中で、胎嚢が確認できた後で赤ちゃんが育たなくなった場合は「流産」といい、また、妊娠反応が出た後で赤ちゃんの袋がみえるべきときに見えなくなったら「化学流産」とされています。
細川)
そうですね。
Dr.)
現在、この2つが広義の意味で不育症ということになっていて、これらが2回以上続いた場合に不育症であるとされています。
細川)
化学流産を含めるかどうかは議論のあるところですからね。
Dr.)
そのような状況になってはじめて不育症の検査を受け、治療しましょうということになっています。そして、これはどの時点で妊娠を判定するかという違いによるものです。
細川)
そもそも、妊娠のスタートについての定義はありませんね。
Dr.)
そうなのです。ただ、よくよく考えてみると、着床すると赤ちゃんと母体との血液の交換が行われるようになり、赤ちゃんは母体から酸素や栄養をもらって、老廃物を排泄するようになるわけですね。そのため、本来は、着床から妊娠が始まったと考えたいのです。
細川)
そう言われると全くそうですね。
Dr.)
そうすると、着床の前までは不妊症、着床後が不育症ということになります。
細川)
要は、現在はhCG陽性反応が出る前までが不妊症で、陽性反応が出た後が不育症とされているけれども、本来的な妊娠のはじまりということから考えると、着床までが不妊症で、着床後が不育症とされるべきであると。
Dr.)
そういうことです。そうすると、下の図2のように着床後妊娠判定前の「化学流産」、すなわち、着床したけれども妊娠判定までに終わってしまったという「潜在的な化学流産」が顕在化することになります。

drmatsubayashi_img2.jpg
図2.不育と不妊の境界は?(2)
細川)
あー、なるほど!
Dr.)
ところが、悲しいかな、現時点では、着床時に出てくる物質がわかっていないので、着床したかどうかを知るすべがないのですね。
細川)
全くのブラックボックスだと。
Dr.)
そうです。胚移植後に妊娠反応が出なかった患者さんに、着床しなかったのですかと、よく尋ねられるのですが、それはわからないのです。
細川)
はい。
Dr.)
ただし、将来、それがわかるようになる時がやってくるはずです。そうなると、着床の日に妊娠判定が出来るようになります。
細川)
そうですね。
Dr.)
そうすると、着床しなかったのか(着床障害)、着床後に育たなかったのか(潜在的化学流産)の区別がつくようになります。
細川)
はい。
Dr.)
現時点で不妊症の方に不育症検査を行うのはこのような意味があるのです。そして、着床後、胚が育たなくなるような異常がみつかれば、適切な治療で、「潜在的な化学流産」や従来の化学流産、そして、流産のリスクも低下し、妊娠、出産できる確率を高めることができるのです。
細川)
よくわかりました。不育と不妊の本来の境界を明確にすることでスッキリと理解出来ました。

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